種子植物やシダ、コケ植物は一般に多量の花粉あるいは胞子を生産する。これら花粉、胞子は植物体と離れて空中に放出され、広範囲の地面や水中に落下する。雨水や河川により湖沼や海域に運搬され、泥質堆積物と共に堆積する。花粉、胞子の外膜はスポロポレニンと呼ばれる物理、化学的に強靱な物質で構成されているため、化石として保存される。分析では泥や砂を化学溶液で溶かし、花粉胞子を集め、プレパラートを作成する。光学顕微鏡観察で、形態の特徴から属を識別し、母植物群を知ることが出来る。これら植物群の質的、量的構成を知ることにより、過去の植生を復元することや当時の気候や古環境を推定することが可能となり、他の地層の花粉組成や古気候変化との対比から地質年代が推定できる(42,43)。
(2)分析実施機関
分析をパリノ・サーヴェイ株式会社に委託した。
(3)分析方法
花粉・胞子化石の抽出方法は、以下の手順で行った。
試料を10g前後秤量する。塩酸処理により炭酸塩鉱物を溶解し、遠心分離法により水洗を繰り返して除去する。フッ化水素酸処理により試料中の珪酸質を溶解し、遠心分離法により水洗を繰り返して除去する。残渣沈殿物に重液(ZnBr2比重2.2)を用いて鉱物質と有機物を分離させ、浮上した有機物を濃集する。有機物残渣を遠心分離法により水洗を繰り返して洗浄する。有機物残渣に氷酢酸を用いて脱水した後、アセトリシス処理(濃硫酸:無水酢酸=1:9)を行い植物遺体中のセルロースを加水分解する。その後、遠心分離法により氷酢酸に置換し、さらに遠心分離法により水洗を繰り返して、酸分を除去する。最後にKOH処理(10%溶液)により腐植酸を溶解し、遠心分離法により水洗を繰り返して腐植酸とKOHを十分に除去する。
検鏡に当たり、プレパラートの作成は、タッチミキサーでよく攪拌した直後の残渣液を木本花粉の合計が200個体以上になるようにマイクロピペットで適量とり、グリセリンで封入する。検鏡は生物顕微鏡のプラン・アポクロマート対物レンズを用い、通常400〜600倍(必要に応じて1000倍)で観察し、木本花粉の合計が200個体以上になることを目安として、プレパラートの2/3〜全面を走査し、その間に出現した全ての種類(Taxa)について同定・計数する。ただし、花粉化石の産出が非常に少ない試料はプレパラート1〜2枚の全面を検鏡する。