大気中には12C,13C,14Cの炭素同位体がある。この内14Cは、5,568年の半減期で12Cの安定な炭素同位体に変化する。一方、大気中の12Cは宇宙線を浴びると、14C炭素同位体に変わる。宇宙線シャワーの強度が一定であれば、一定量の14Cが生成され、14C/12Cの比は一定で大気中に存在する。この14C/12Cの炭素を取り込んだ植物や動物中の炭素の14Cは時間と共に少なくなる。少なくなる割合は一定であることから、遺体となった植物片等の14C/12Cの同位体比を測定すれば、その植物片形成の時間が推定できる。時間と共に14Cは急激に少なくなり、有意の14C/12Cが得られなくなる。宇宙線の強度については年輪年代測定法との併用で、分析年代値の補正が可能となっている(42,43)。
(2)測定方法
測定方法は、大きく分けて以下の2つの方法がある。
* β線計数法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・間接法
* 加速器質量分析法(AMS)・・・・・・・・・・・・直接法
β線計数法は放射壊変で放出されるβ線を計測し、14C濃度を分析する方法である。具体的には、試料をベンゼン等の炭素化合物の液体とし、液体シンチレーション計数法で測定を行う方法である。この方法では、β線測定が重要であるが、宇宙線等の外部からのβ線(バックグラウンド)より有意のβ線強度が必要である。この制約のため、試料が数10〜100g程度必要で、測定限界が3万年前程度とされている。
加速器質量分析法は、14Cが壊変する際に放出されるβ線を検出するのではなく、14C原子質量を直接検出する方法である。加速器質量分析法はβ線計数法に比べ、より少量の1g程度で、測定限界が約5万年前まで測定できる長所がある。一方、試料のもつ問題(数千の年輪をもつ材化石では、箇所毎に年代値が異なる)、上部地層中からの新規の炭素の混入、処理上の汚染など新たな問題も多い。
(3)試料調整と測定実施機関
採取した試料は肉眼観察で不純物を除去し、炭質物を抽出して、試料の調整を財団法人地域 地盤 環境 研究所で行った。同研究所経由で、ニュージーランド国立放射線測定研究所(GRI)に加速器質量分析法(AMS)による測定を委託した。
(4)測定結果の整理と表示
測定結果を年代値で示すが、以下の表示方法があるので注意されたい。
14C年代測定値:試料の14C/12C比から、単純に現在(1,950年AD)から何年前(y.B.P.=year Before Present)であるのかを計算した値である。半減期5,568年を用いた。
補正14C年代値:試料の炭素安定同位体比(13C/12C)を測定して試料の炭素の同位体分別を知り、14C/12Cの測定値に補正値を加えた上で、算出した年代。
δ13C測定値:試料の測定14C/12C比を補正するための13C/12C比である。この安定同位体比は、下式のように標準物質(PDB)の同位体比から千分偏差()で表現する。ここで、13C/12C[標準]=0.0112372である。
暦年代:過去の宇宙線強度の変動による大気中14C濃度の変動に対する補正で、暦年代を算出する。そこで、年代既知の樹木年輪14Cの詳細な測定値を使用した。 (Stuiver et al.,1993; Vogel et al.,1993; TalMa and Vogel,1993)。この補正は10,000y.B.Pより古い試料には適用できないとされている。