井本他(1989)(9)によれば、亀岡盆地の第四系は「下位から大阪層群上部相当層、崖錐・扇状地及び低位段丘堆積物、沖積層と後背湿地堆積物に分けられている。
大阪層群上部相当層は亀岡盆地の南部では丘陵として、盆地南東の老ノ坂付近で山地中に点在している。上治(1961)は篠村に模式地として篠層と名付けた。礫砂・粘土からなり、亜炭や火山灰を含む。三木(1948)は湯ノ花の泥炭(亜炭)篠町篠からサワラ等の植物遺体を報告しているが、時代の特定はなされていない。同様の地層は、越畑盆地にも分布する」とされている。「盆地周辺、特に東側〜北東側山麓には低位段丘が分布し、さらに、低位段丘を下刻して、発達した新期の扇状地がある。山麓扇状地は、盆地側では低位段丘に繋がり、両者の境界は不明瞭である。山麓ではさらに小規模な崖錐も認められる。
保津町今石西方の扇状地性低位段丘とした地点では厚さ約20mの礫層があり、地表から約5mの深度に中礫からなる礫層中の淡褐色姶良TN火山灰(AT)純層がある」と報告している。記載された地質柱状では、地表から約15mまでの深度には中礫が、それ以深の約5m区間には大礫・中礫の礫層が、さらに最下部に極細粒砂が記載されている(石田、(1989)(9);近畿農政局(1973)記載が最初に記載してと思われる)。沖積低地や後背湿地は、現桂川周辺に分布している。桂川が保津峡に入る手前には広い湿地が広がると記している。
B.盆地地下の地質
盆地地下の地質情報については、近畿農政局計画部(1973,1979)(36,37)、清水・黒川(1974)(38)がまとめている。
近畿農政局計画部(1973)(36)では、亀岡盆地の深井度資料の収集や宇津根橋で、基盤岩に達するボーリング掘削(図3−1−17)や、重力探査(図3−1−18)から基盤岩上面深度分布の推定が試みられた。ボーリング掘削では、「168mで基盤岩に到達した。地表から71mの深さまで砂礫で、表土の厚さ1m、深度15mまで玉石混じりである。71m以深は粘土と砂礫の互層で、5〜20mの厚さで繰り返す。深度71m〜168mまでに2.5〜20mの厚さの粘土層が6枚挟まれている。深度145〜146m、162〜163mの粘土の花粉分析によればブナ〜コナラで代表され、大阪層群上部のMa3からMa5の間の層準と考えられる。深度157.5〜158.5mの粘土はブナ、トウヒ、モミ、ツガが卓越し、寒冷な気候」と判断している。さらに、重力探査と合わせ、亀岡盆地の基盤等深度分布図も引用されている。これによると、埋没基盤岩上面の最深部は200m以上と推定され、基盤岩上面の複数の急傾斜部分には、断層が推定されている。
近畿農政局(1979)(37)は盆地内の長尺ボーリングから水理地質図や地質断面図を作成している(図3−1−19、図3−1−20、図3−1−21、図3−1−22、図3−1−23)。これを見ると、桂川の沖積低地では地表から深さ5mまでAgで示す沖積礫層、深さ約15mまでは洪積礫層(Dg)が、それ以深には礫が卓越する大阪層群礫(Og)が、その下位に粘土・砂の互層が卓越する大阪層群(Oc−s)が分布し、基盤岩を覆うとされている。盆地内で、基盤岩まで到達するボーリングは、既に述べた宇津根橋でのボーリング以外ないため、基盤岩の分布は、重力探査から求めたものを用いている。大阪層群のOgとOc−sとの境界は起伏に富むものとして図示している。
大阪層群Oc−sとしているものは、亀岡盆地南部の丘陵地に分布する大阪層群上部相当層に繋がるものと思われる。基盤岩上面分布やこのような大阪層群の分布から盆地は北側に向かって傾き、北側に沈降の中心がある。
この他、京都府(1997)(3)は亀岡市千歳町(標高112〜113m)を南北に走る山側の雁行する亀岡断層の一つを対象に、その両側で掘削深度40mと42mの2本のボーリング掘削を行った。標高100m付近のボーリングコアに、層厚数mの粘土が認められ、ここから姶良TN火山灰(AT)起源のガラスが肉眼観察から検出されている。AT火山灰起源のガラス出現層序から下では砂礫を主体に、粘土やシルトを挟む。一方、AT火山層準以浅は表土を除くと、砂礫のみで、扇状地礫層に対比している(図3−1−24)。
既に述べたように石田(1987)(9)は、亀岡市保津町今石西方の扇状地性低位段丘礫層からAT純層の(推定標高100〜110m程度付近)産出を報告している。約4km上流側の千歳町のAT産出標高と比べ、下流側の今石西方が約10m程度高い場所で産出する。両者は共に水成堆積物と思われる。現在の沖積面の下流側への傾斜は高度差3m/距離1kmとほとんど水平に近いものと見なされる。両者の間に山側の亀岡断層があれば、AT火山灰産出比高差は変位量と見なされるが、今石西方の正確な位置、標高が不明のため、断層や変位量について議論できない。しかし、AT火山灰は亀岡盆地で、標高100mに広く分布している可能性が明らかにされたことは地質解析上、重要な鍵を提供した。