7−2−3 神吉トレンチ調査(神吉−越畑断層調査)

場所:船井郡八木町神吉上ノ坪(図7−13

調査数量および調査内容:トレンチ調査:26×4〜8×3〜6(m)

スケッチ及び写真撮影

火山灰及び年代測定試料サンプリング

火山灰試料:76個

年代測定試料:16個

調査結果:トレンチ断面観察

 調査ボーリングB8(ヤ)−1:lを規準にしてN25Eを長軸とし長さ26m、平均の深さ3〜3.5mを掘削した。さらに、必要と考えられた所については深く掘り下げ、調査を行った。スケッチは北側断面、南側断面と東側断面について整形・水糸張りを行い、1/20スケールとした。トレンチ断面図スケッチを図7−14に、トレンチ層序区分図を図7−15に、トレンチ断面の写真を図7−16図7−17に掲載した。

 トレンチ断面の観察の結果、全体的に観察される砂礫層(N層)及びその上部に堆積した、有機質粘土層(M層)を変位さすような明瞭な断層構造は確認できなかった。

 しかし、トレンチ断面には細粒の有機質粘土の層厚の変化や、姶良Tn火山灰層(AT)のスランプの様な堆積構造や上方細粒化の堆積構造の繰り返しなど、古気候の変化だけでは考えられない、テクトニックな運動が示唆されるものが認められた。

 当トレンチにおいては、大部分の堆積層について木片が多く含まれていた。よって、それらの木片について、放射性炭素年代測定を行い、トレンチ断面に見られる堆積相の形成ストーリーを考察する。

 木片の年代測定結果を図7−18に示す。砂礫より構成されるN面より上部の層のほとんどについて結果が得られた。下部から上部に向かって順に説明すると、砂礫により構成されたR層から順に有機物を多く含むシルト層(O層)まで、上位に向かって細粒化を見せる。O層の上面を削り込むように、砂礫から構成されるN層が層厚1.5m程度堆積し、上位に有機質粘土からピート層(K2層)へと有機物を多量に含むような細粒物が堆積する。これは、過去に神吉盆地が水面下であった時に、徐々に浅くなって、植物が繁殖できるような環境下であることが推定される。N層とK2層に挟まれるM層の層厚はトレンチの東側において30〜40cm程度だが、中央部に従って、すなわち盆地内部に従って、層厚は1mを越すようになる。その上位では、細粒なものを削り込むように細礫層(L層)が堆積し、トレンチ西側においてK2層とM層の上面が削剥されている様子が認められた。その後、細粒化し、姶良Tn火山灰(J層)が2万5千年前に降下・堆積した。さらに、礫質砂によってJ層及びH層が削剥され、粗粒なものが堆積し、その上部に細粒な堆積物(F及びE層)が堆積したものと推定される。

 よって、当トレンチ断面からは4回の堆積構造の繰り返しが認められ、そのうちの最近の3回は5万年以内に起こったものが、年代測定から推定された。ただ、K2及びM層を大幅削り込むL層やM層の層厚の変化から当盆地は構造盆地である可能性を秘めており、テクトニックな運動があったことを示唆する。さらに、トレンチの東側面について、姶良Tn火山灰(J層)がその上部に堆積したシルト層(G層)を巻き込むようなスランプ構造が認められた(図7−19)。これは非常に微構造ではあるが、海洋の堆積物については地震などの振動によって、斜面に堆積した水分を多く含んだ不安定な堆積物が、斜面に沿って滑った構造を示すもので、当構造も小さいながらこれに対比される。よって、当調査地域の運動かどうかは不明であるが、H層の堆積時期(AD580年)以降に、この地域を襲った地震が想定される。 

層 序 区 分

 人工改変土

  A:人工改変土

   圃場整備の時に盛られた土砂と思われる。

  B:礫層

  C:礫層

ユニット1

  D:砂礫層(チャネル)

トレンチ西側でのみ観察される。

層厚0.8m。礫はφ5mm〜1cm程度の角礫チャートを主体とする。基質は粗砂〜中粒砂で淘汰悪し。含水多位。

E:礫質砂層

ほぼI層と類似。やや細粒分多し。含水中位〜多位。やや軟らかい。

  F:粘性土層

層厚約0.4m。やや軟らかく、淘汰良し。含水多位。粘性強。

G:礫質砂層

層厚最大1m程度。礫はφ5mm程度のチャートを主体とする角礫。マトリックスは淘汰の悪い粗粒砂〜細粒砂。含水中位。

ユニット2

H:シルト層

層厚0.3〜0.5m。淘汰良し。含水中位。粘性中〜強。

I:有機質シルト

やや分解の進んだ色を呈す。層厚0〜0.3m程度で、不連続である。部分的に茶褐色を呈する植物片混入。含水強。粘性強。

  J:火山灰層

ATと思われる。降下してきたような堆積構造の上部に再堆積したような構造を示す。層厚0〜0.2m。南東角において厚く堆積し、トレンチ中央部にお

いて薄くなり、断片的になり、観察出来なくなる。

  K1:ピート層

層厚0.5〜0.8m。植物片が多く含まれる色の濃い層の中に、少ない色の薄い薄層が2層程度観察された。N78W 8S

  L:砂礫層

層厚0.2〜0.8m。礫はφ5mm〜1cm程度の角礫チャートを主体とする。基質は粗砂〜中粒砂で淘汰悪し。

ユニット3

  K2:ピート層

層厚0.5〜0.8m。植物片が多く含まれる色の濃い層の中に、少ない色の薄い薄層が2層程度観察された。N78W 8S

  M:有機質粘土層 

分解の進んだ有機質粘土。当層の最下部には木片を多く観察した。層厚平均0.4〜1.35mと、層厚に大きな変化が見られる。

  N:礫層

礫分は90パーセント以上を示す、土石流的な礫層。層厚1.5m。

   ユニット4

O:有機質シルト層

分解の進んだ色を呈す。1cm以下の角礫が希に混じる。含水中位。粘性中位。

  P:砂礫層

チャートを主体とする角礫。平均φ0.5〜3cm。最大5〜6cm。マトリックスは細礫〜粗砂で淘汰悪し。湧水多し。O層中に厚さ15cm、幅40cm程度のマッドボール入る。

  Q:腐植土混りシルト質砂層

2〜1cmのチャート角礫希に含む。全体的に淘汰悪い。含水中位〜多位。粘性強。

  R:砂礫層

全体的に灰白色を示す。5mm〜3cmのチャート角礫が主体となる。マトリックスは粗砂〜シルトと極めて淘汰悪し。含水中位。