(2)独鈷山地区におけるボーリングコア試料の火山灰分析

(1) 目的

ボーリングコアに見いだされた火山灰の集中層を特定し、その出現標高の分布から断層の存否に関する評価を行うとともに、火山灰の起源を同定し、その年代から断層の活動時期を決定する。

火山灰分析は熊本大学教育学部地学教室 渡辺 一徳研究室において、平成 8年11月7日から 12月7日にかけて行われた。

(2) 分析手法および数量

火山灰集中層の特定に関しては、下記の手法を採用した。

・ サンプリングした試料を超音波洗浄し、マイクロスプリッターにより均等に分割し、試料を減少させる。

・ 試料中の鉱物約 1,000 個中に含まれる火山ガラスの数をカウントし、その含有率を求め、含入率の高い層を集中層とした。

火山灰の同定に関しては、下記の手法を採用した。

・ 火山ガラスの屈折率を浸液法で測定し、既存の火山ガラスの屈折率と比較して、火山灰を同定した。

・ 各浸液は、調整済みの浸液(日本地科学社)のものを使用した。各浸液の屈折率の間隔は、0.002〜0.003 程度とする。

・ 測定には偏光顕微鏡を使用し、光源はナトリウムランプ(589.3 mμ)を使用した。

ボーリング調査を行った 3 地区のなかで、独鈷山地区のボーリングコアにのみ、火山灰が濃集する層準が目視により確認された。独鈷山地区の 5 孔のボーリングのうち、リニアメントや地質断面図等を基に、断層の近傍と考えられる 3 孔のボーリング(BD−3、BD−5、BD−2)を分析対象とした。

火山灰集中層の特定には、目視により火山灰が確認された深度を中心に、1 m の範囲を1 試料/10 cm でサンプリングしたものを使用した。分析試料数は 10 試料/孔× 3 孔= 30 試料である。

また、火山灰の同定には特定した集中層の火山ガラスの屈折率を測定した。

(3) 分析結果

火山灰の集中層の集計結果を表3−3−3 に示す。これから、下記のことが結論できる。

・ 火山ガラス含有率は、BD−3 で 12.3 %、BD−5 で 7.6 %、BD−2 で 7.3 % の突出した値が認められる以外、約 3〜5 % で比較的安定した値が連続する。

・ BD−5 のガラス含有率の変化は著しく、深度 4.4〜4.9 m の間で含有率は約 5 % で、深度 4.9 m 付近で 2.2 % に下降した後、5.1〜5.2 m で最大値 7.6 % に達する。

・ 火山ガラスの集中層の特定は問題はあるが、集中層を火山ガラスの含有率が最大となる層準とみなすと、集中層は BD−3 から BD−5 および BD−2 に向かって下降している傾向にある(表3−3−4)。

表3−3−3 火山ガラス含有率集計表

集中層の火山ガラスの屈折率の測定結果を、表3−3−5 に示す。これらから、測定した火山ガラスの数がやや少ないきらいはあるが、3 試料とも火山ガラスの屈折率の分布頻度の高いのは n=1.505 である。

表3−3−4アカホヤ集中層の深度と分布標高の関係

表3−3−5 アカホヤ火山灰の屈折率測定結果(BD−3、BD−5、BD−2)

測定した火山ガラスの屈折率と姶良火山灰(ATn)および Aso−4 火砕流堆積物の火山ガラスの屈折率(それぞれ n=1.498〜1.501 と n=1.506〜1.510)と比較した(図3−3−4)。測定したガラスと屈折率が一致するのはアカホヤ火山灰(Ah)と Aso−4 火砕流堆積物である。町田・新井(1992)によると、アカホヤ火山灰の屈折率は n=1.508〜1.516 である。しかし、同時に、一部には n=1.500 の低いものから n=1.520 の高屈折率のものまでわずながら存在することを指摘している。これらから、測定された屈折率はアカホヤ火山灰と同定できる。実際、双眼実体鏡下における観察では、比較した火山灰すべてにバブルウォール型の黄色ガラス片が多数認められ、アカホヤ火山灰ときわめてよく似ている(AT 系では無色、Aso−4 火砕流堆積物では茶色系である)。

図3−3−7アカホヤ火山灰の屈折率の比較

以上の結果を下記のようにまとめることが可能である。

・ 分析対象の火山灰はすべてアカホヤ火山灰(Ah)である。その屈折率は n=1.501〜1.508 で、アカホヤの屈折率の平均値よりやや小さい。

・ アカホヤ火山灰の集中層の標高は BD−3 で約 0.1 m、BD−5 および BD−2 で約 − 1m 程度である。

・ BD−3 と BD−5 の水平距離は約 8.0 m であり、この間のアカホヤの分布標高には約1.0 m の食違いがある。