深度方向の比抵抗と充電率の分布から、断層の存在位置や存在形態を推定することを目的としている。
2) 探査仕様
U.2.2 の電気探査の項で既述したように、ダイポール・ダイポール法を採用し、表2−2−1の探査計測機材を使用した。
測定は、独鈷山地区と麻生田地区の 2 地区で行った。
独鈷山地区の測線は刈り入れの終わった田圃の中であり、図3−2−1 に示すように 4 本の測線を設定した。それらを東から順に測線 A、B、C、D と称する。測線方向は A、B 測線で北北西−南南東、C 測線で北西−南東、D 測線で北西西−東南東である。測線長は A、B、C、D 測線それぞれ 180 m、130 m、110 m、110 m の計 530 m である。
麻生田地区の測線は雑木林から畑にまたがり、標高差が 10 m 程度ある地域である(図−3−2−2)。測線長は 100 m(1 測線)である。
測線延長を、表3−2−1 に示す。
表3−2−1 電気探査測線延長
測定に際しては、U.2.2 の電気探査の項で既述したように、正確な電位と電位波形を取得するように留意した。
探査は熊本大学工学部環境システム工学科の探査情報工学グループが、平成 8 年 8 月 1 日から11月26日にかけて行った。
3) 解 析
解析に当たっては、U.2.2 の電気探査の項で既述したように、見掛比抵抗断面図、見掛充電率断面図を作成した。
独鈷山地区では、電極間隔を大きくすると、データの信頼性がきわめて低くなることが予備調査で判明したので、電極間隔 a は 10 m、隔離係数 n は 11 とした。したがって、探査深度は 60 m、総測定データ数は 277 点である。
独鈷山地区の解析結果を図3−2−3、図3−2−4、図3−2−5、図3−2−6 に示す。いずれの測線にも共通する特徴は、南側の見掛け比抵抗値 ρa が相対的に大きく、この高比抵抗部は北側に傾斜する傾向にあることである。また、深度 50 m 以深に M≧10 mV/V の高い充電率をもつ部分がみられ、これは凝灰角礫岩の風化部に対応すると考えられる。ボーリング資料に基づく地質断面図と最も良く対応しているのは測線 A での見掛比抵抗断面図である。測線 A および B の浅部における ρa≦40 Ω・m の低比抵抗部は有明粘土層の存在に起因し、北側(金峰山側)ほど ρa が低くなるのは、含水率や粘土分の含有率の増加に関連すると考えられる。当初、有明粘土層の存在範囲における M の値は大きいと予想していたが、M≦3 mV/V の領域がほとんどで ρa との対応は見出せなかった。測線 B の深部には ρa≦40 Ω・m の領域が広く分布する。これは他の測線には見られない特徴であり、凝灰角礫岩の風化の程度が高いことを表すのかもしれない。
測線 C および D には顕著な低比抵抗部が存在しないのが特徴的である。この要因として、全体的に砂分の含有率が多いことなどが推測できる。測線 C での ρa の変動幅は他の測線と比べて極端に小さい。測線 D では同一深度においてM≧10 mV/V と急に大きくなる部分が、始点からの距離 50 m 付近に北西傾斜で存在している。その部分の ρa も南側のそれと比べて 20 Ω・m 以上低下している。
以上をまとめると、独鈷山地区では測線 D において断層の存在らしき特徴が現れており、断層は北西傾斜と推定される。
麻生田地区では、西北西−東南東方向に 100 m の測線を設定した。独鈷山地区と異なり、電極間隔を小さくしても良好な結果が得られることが予備調査により判明したので、電極間隔 a は 5 m、隔離係数 n は 15 とおいた。したがって、探査の対象深度は 40 m、測定データ数は 165 である。測点の始点と終点の標高差は約 10 m あり、始点から 40 m の距離まではほぼ平坦である。得られた見掛比抵抗 ρa と充電率 M の解析結果を図3−2−7に示す。これより ρa は山側の傾斜と調和して、北傾斜の構造を示すとともに、深度が増加するにつれて、ρa が低下するという特徴が明らかである。地表面下浅部に存在する ρa≧400 Ω・m の高比抵抗ゾーンは、測線上の位置 50〜100 m に相当する斜面ではほぼ一定の厚さを保っているが、平坦部では北側に向けて次第に厚さが増加することがわかる。このゾーンは段丘礫層と Aso−4 火砕流堆積物を含んだ部分に相当すると考えられる。高比抵抗ゾーンとそれ以深では、ρa が大きく異なることも顕著な特徴である。ρa が 200 Ω・m 以上低下する部分もみられる。ρa が 130〜300 Ω・m の領域は Aso−3 火砕流堆積物、それより小さい領域は金峰山火山岩類の分布を示すと推定される。
充電率については、 M≧10 mV/V と高い値を示す箇所がみられ、それらの中には高比抵抗ゾーンとAso−3 火砕流堆積物に相当する中比抵抗ゾーンとの境界および中比抵抗ゾーンと低比抵抗ゾーンとの境界に位置するものもある。ただし、その分布の連続性は乏しい。
以上の結果より、見掛比抵抗の急変部は断層の存在を示すよりも地層の境界に対応する可能性の方が高いと考えられる。