(3)地質各説

立田山およびその北部一帯から京町台地、熊本城さらに金峰山南縁部にかけて、下記の地層・岩石が分布する。

(1) 金峰山火山岩類(Kp)

金峰山火山岩類基盤岩類の上部は、安山岩溶岩および同質の凝灰角礫岩を主体とし、一部凝灰岩、凝灰質礫岩、泥質凝灰岩等を混える.調査地域西部の金峰山火山を噴出源としている。金峰山火山はカルデラを形成しており、本調査地域はその外輪山外縁(東斜面〜南斜面)に相当する。井芹川を境として、その東方から南東方向には島状の小山地(立田山−花岡山−万日山−独鈷山−城山−御坊山)が分布し、これらも金峰山火山岩類から構成されて

いる。

金峰山火山岩類の噴出年代は、外輪山で約 120 万年前(唐木田ら(1992))である。

@ 花岡山・万日山付近

花岡山や万日山(写真3−1−15)の山頂部には厚さ約 30 m の安山岩溶岩が分布する。その下位は凝灰角礫岩が分布する。

A 権現山付近

権現山の南斜面の採石場には安山岩溶岩および凝灰角礫岩が分布する(写真3−1−16)。

B 万石谷の南付近

ここでは、粘土化した凝灰角礫岩が分布する(図3−1−13)。

C 清水町岩倉付近

清水町岩倉付近では凝灰岩(写真3−1−14)がほぼ水平あるいは、15〜20°E 傾斜で分布する。岩倉付近では、凝灰質礫岩、泥質凝灰岩等が分布する(図3−1−15)。

(2) Aso−3 火砕流堆積物(Aso−3)

京町台地の北方 清水町大窪〜高平の標高約 30 m 以下の地域に広く分布する。その他に、白川右岸の龍田町弓削、清水町麻生田、立田山西側の万石川沿い、および立田山東側付近等にみられる。発泡したスコリア、軽石、黒曜石石質岩片を含んだ火砕流堆積物である。全体に著しく風化し、褐色ないしは赤色を呈する。岩片は岩芯までくさり礫になっているものが多い(写真3−1−17)。

Aso−3 火砕流堆積物の地質年代は約 12 万年前である(渡辺、1995)。

@ 清水町大窪〜高平

径 2〜5 cm の軽石、安山岩の角礫が灰茶褐色の火山灰のマトリックス中に分布する。径2 cm 以下のスコリアを含む。スコリアは斜長石、輝石の斑晶を含む。溶結構造はみられない。その層厚は 20 m 以上ある。

A 白川右岸の龍田町弓削

弓削付近では標高 60〜80 m の崖に分布する。径 10〜40 cm の発泡のあまり良くないスコリアを含むのが特徴的である。その他に、径 5〜10 cm の安山岩角礫および軽石を含む。スコリアは長さ 1〜1.5 mm の斜長石の斑晶を含む。固結度は低く、溶結構造はみられない。龍田町弓削付近では、Aso−3 火砕流堆積物の層厚は 20 m 以上ある。

B 清水町麻生田の北バイパス付近

北バイパスの麻生田付近に分布する。径 3〜5 cm の白〜灰茶褐色の軽石および安山岩の角礫が黄白色のマトリックスの中に分布する。非溶結である。層厚は 10 m 以上ある。

C 立田山西側の万石川沿い

万石川沿いに分布する。径 2〜5 cm の安山岩角礫を主体に、径 1〜2 cm の黒曜石の角礫をまれに含む。安山岩の角礫はくさり礫となっている。万石川沿いの Aso−3 火砕流堆積物は茶灰〜暗褐色を呈し、薄汚れた感がする。非溶結である。

D 立田山東側

雨水調整地、熊本北高等学校、県林業研究指導所竜田圃場および上園に分布する。この付近に分布する Aso−3 火砕流堆積物は径 3〜7 cm で、白色〜灰茶褐色の軽石や安山岩の角礫が灰茶褐色のマトリックス中に分布する。非溶結である。

清水町八景水谷公園のボーリング資料では、Aso−3 火砕流堆積物の基底は標高 − 20 m 以深である。

(3) Aso−3・4 間堆積物(Aso−3・4)

京町台地の北方 清水町高平付近の高平屋敷および徳王町白土に分布する。高平屋敷では、Aso−3 火砕流堆積物の上位に分布する(写真3−1−18)。白〜茶灰色の凝灰質シルトを主体とし、層厚は少なくとも 1 m 程度である。白土では、白〜茶褐色の凝灰質シルトが層厚 0.5 m 程度分布している。ボーリング資料によれば、層厚は最大 数 m 程度である。

 Aso−3・4 間堆積物の地質年代は Aso−3 火砕流堆積物と Aso−4 火砕流堆積物の間 約12〜9 万年前である。

(4) Aso−4 火砕流堆積物(Aso−4)

京町台地、熊本城地域、金峰山東麓の標高 60〜70 mの丘陵地、花岡山北側の丘陵地、麻生田の北バイパス沿いなどに分布する。一般に軽石流堆積物からなり、金峰山東麓の丘陵地では、弱〜中溶結凝灰岩となっている部分がある(写真3−1−19、写真3−1−20)。また、Aso−4 火砕流堆積物の上部は一般に、層厚 5 m 以上の火山灰が被覆している。

Aso−4 火砕流堆積物の地質年代は 約 9 万年前である(渡辺、1995)。

@ 京町台地

京町台地の西側あるいは東側の崖に主として分布する。軽石流堆積物あるいはシラス状の凝灰質な堆積物よりなり、一部は弱溶結しているものもある。軽石流凝灰岩は径 5〜30 cm の軽石を含んでいる。京町台地西側の熊本総合体育会館の東側の急崖、西側の与倉知実旧居跡の東側の急崖に分布する。その北側では、熊本鉄道 かんかんざか駅付近の急崖に分布する。さらにその北側では、熊本工大グランド付近にも軽石堆積物が分布している。

シラス状の凝灰岩質堆積物は軽石流凝灰岩の上部に分布する。京町台地西側の上熊本団地の横、JR上熊本駅の東南部の急崖の下部、かんかんざか駅付近の急崖の下部では、弱溶結凝灰岩となっている。軽石には、針状の角閃石斑晶が認められる。

A 熊本城地域

主として軽石流堆積物からなる。熊本城西側の藤崎台童園南側の道路あるいは急崖には、径 5〜30 cm の軽石を含んだ軽石流堆積物が分布する。これと同様な軽石流堆積物は熊本城東側の家庭裁判所横の道路際の急崖にも分布している。

軽石には、針状の角閃石斑晶が認められる。

B 金峰山東麓

島崎五丁目昆紗門橋上流の崖、三賢堂の急崖、島崎六丁目の県営小山田団地西側約 300 m の道路際、花園五丁目 中尾バス停横の急崖、花園五丁目市営花園上ノ原団地北西の道路法面には、弱溶結凝灰岩が分布している。花園七丁目の若宮神社付近の急崖、前川の前川橋の右岸の急崖、柿原の養鱒場の急崖、鳴岩橋付近の急崖にも溶結凝灰岩が分布する。さらにその北の熊本市扇田埋立処分場の北東あるいは北西の急崖に溶結凝灰岩が分布する。北東部の急崖では、下部は強く溶結し、中〜上部では溶結度は弱くなる。

これらの溶結凝灰岩は白〜灰白色を呈し、急崖をなしており、大まかな柱状節理が発達している。軽石には、針状の角閃石斑晶が認められる。

C 花岡山北側の丘陵

戸坂町の戸坂橋付近に軽石流堆積物が分布する。軽石流堆積物は径 5〜30 cm の軽石が凝灰質なマトリックス中に分布する。この付近では溶結した凝灰岩はみられない。軽石には、針状の角閃石斑晶が認められる。

D 清水町麻生田の北バイパス沿い

北バイパスの麻生田付近に分布する。径 3〜5 cm の白〜灰茶褐色の軽石堆積物よりなる。軽石は、針状の角閃石斑晶が認められる。非溶結である。Aso−3 火砕流堆積物を不整合に覆い、ここでの層厚は 3 m 以下である。

なお、Aso−4 火砕流堆積物の上部には、まれに鳥栖軽石流堆積物(オレンジ色の軽石質堆積物)が分布している。清水町麻生田の北バイパスの露頭や熊本城のボーリングコアで鳥栖軽石流相当層が観察される。

(5) 託麻砂礫層(Tg1、Tg2)

託麻砂礫層は、白川の両岸および坪井川左岸に 2 段の平坦面を形成している。分布標高は 70〜30 m におよんでいる。白川沿いでは安山岩の巨礫(径 0.3〜1.0 m)が 主体であり、坪井川沿いでは中〜細礫(1〜5 cm) が主体となっている。高位面(Tg1 面)は白川の両岸に広く分布するのに対し、低位面(Tg2 面)は坪井川の左岸に分布する。一般に、層厚は 10〜 20 m 程度である。ボーリング資料の結果を考慮すると、層厚は最大 40 m に達する部分がある。託麻砂礫層上部は褐色ロームや黒ボクにより覆われている(写真3−1−21)。

託麻砂礫層の地質年代は約 9 万年前である(渡辺ら、1995)。

@ 上南部町松の上付近(Tg1)

東部中学校北の道路の法面では、径 20〜40 cm の安山岩の円礫が砂質のマトリックス中に分布している。層厚は 15 m 程度で、かなり固結度は高く、良く締まっている。

A 平山町の熊本木材工業団地(Tg1)

熊本木材工業団地内の建設基礎現場では、径 20〜30 cm の安山岩の円礫が砂質のマトリックスの中に分布する。層厚は 2 m 以上で、固結度はあまり高くない。上部は層厚 3 m 程度の褐色ロームに覆われている。

B 麻生田神社裏の急崖(Tg1)

ここでは崩壊地が南西〜北東方向に連続し、径 10〜20 cm の安山岩の円礫が分布している。マトリックスは砂質で、固結度はあまり高くない。層厚は 5 m 程度である。

C 八景水谷公園付近(Tg2)

八景水谷公園付近の東〜北東〜北側の急崖には、径 1〜2 cm 程度の円礫が主として分布する。一部に赤色のスコリアや軽石が濃集する部分もある。上部は褐色ロームに覆われている。層厚 15 m 程度で、固結度はあまり高くない。

D 清水町本町建吉組資材置場の南側の急崖(Tg2)

ここでは、径 1〜5 cm の安山岩の円礫が分布する。一部には径が 10 cm 達するものも存在する。層厚は 2 m 以上ある。

E 黒髪三丁目 朝日野病院南側の急崖(Tg2)

朝日野病院の南側の急崖には、径 2〜5 cm の円礫が分布する。一部には砂質あるいは礫混じり砂に移化する部分もある。固結度はあまり高くはない。

(6) 保田窪砂礫層(Hcg)

保田窪砂礫層は白川の両岸および坪井川左岸に平坦面を形成している。分布標高は 30〜15 m である。安山岩の円礫を多量に含む(写真3−1−22)。

保田窪砂礫層の地質年代は約 4〜5 万年前である(渡辺ら、1995)。

@ 九州縦貫自動車道 白川橋の左岸側

Aso−3 火砕流堆積物の上部を覆って、保田窪礫層が分布する。保田窪砂礫層は比較的良く締まっており、径 5〜100 cm の安山岩の円礫が砂質のマトリックス中にみられる。層厚は 5 m 以上ある。

A 九州女学院の西側の駐車場の急崖

礫層〜砂層からなる。上部 1 m は礫層が、下部の 1.5 m は砂層が主体となっている。礫は径 1〜5 cm の安山岩の円礫よりなる。礫層〜砂層はあまり固結度は高くない。

(7) ローム層

調査地全域に最大層厚約 5 m のローム層(褐色ローム〜黒ボク等からなる)が覆っている。このローム層中には姶良火山灰やアカホヤ火山灰が薄く分布する。

姶良火山灰(ATn)は褐色ローム層の上部もしくは、黒ボクの下部に分布する。淡色の、多量のガラス質の火山灰が濃集している部分が姶良火山灰である。このため、黒色がやや薄くなり、淡褐黒色になっている。ATn の地質年代は約 2.2 万年前である(渡辺、1995)ので、褐色ロームの地質年代もほぼ同一とした。

褐色ローム層を覆う黒ボクの上部に多量のガラスが濃集し、淡色化した部分がアカホヤ火山灰(Ah)で、その地質年代は約 6,300 年前である(渡辺、1995)。

(8) 崖錐堆積物(Ta)

金峰山の南側をはじめ立田山、万日山、独鈷山等に広く分布する。立田山周辺部には比較的古い崖錐堆積物が、万日山や独鈷山周辺部には新しいものが多い。金峰山南方でも、新しい崖錐堆積物が多数認められる。

崖錐堆積物の地質年代は約 2 万年前とする。

(9) 沖積層(Al)

白川や井芹川の下流部から島原湾にかけて、粘土を主体とする有明粘土層が分布する。有明粘土層は地表下に存在し、ボーリング調査によって確認されるのみで、地表地質調査では認められない。有明粘土層(A)は粘土を中心に、砂、腐植等を挟み、かなり軟弱である。

また、白川、坪井川、井芹川沿いには、礫、砂、粘土などからなる未固結な沖積層が分布する。その地質年代は約 1 万年前である。