@ 一次元逆解析
○理 論
解析は水平多構造を基にして得られた(2.1)〜(2.3)式を用いて、あるモデルでの見かけ比抵抗値を計算した。
次に、各周波数毎に計算上の見かけ比抵抗値と測定での見かけ比抵抗値との差が最小となるように非線形最小2乗法を用いてモデルを数回繰り返し修正し、測点での地盤構造として測定値に最も近い見かけ比抵抗(ρa−f曲線)を描くモデルを選出し、測点での地盤構造(比抵抗柱状図)を得た。
【水平多層構造の理論式】 式2−2−1
○結果の整理
CSMT探査の結果、約12種類の周波数により得られた見かけ比抵抗から、各測点の地盤を水平多層構造モデルとして各深度の比抵抗値を解析した(比抵抗柱状図)。
○一次元逆解析フロー
図2−2−3に一次元逆解析フロー図を示す。今回は最大可探査深度を1000mとして、層分割を固定(層分割の比率はフロー図参照)し、各層内の比抵抗値を逆解析する方法を採用した。ここで、もし、R1とR2(フロー図内の記号)とが同一の比抵抗の地層ならば同様な比抵抗値が返されることになる。
各点の解析は収束性を確認しながら5回程度の逆解析を行った。
その結果、最終的に得られたものが比抵抗柱状図である。これに対して現実の地盤は3次元であるため、その歪みが断面図の中に含まれている。
図2−2−3 一次元逆解析フロー図
A 二次元逆解析
一次解析では、地形の影響、横方向の比抵抗変化によるデータの歪みを取り除くことができない。そこで、有限要素法を利用し、二次元的な比抵抗断面図を解析した。
○理 論
CSMT探査において、信号源が測定点の十分遠方にある場合、近似的に大地に平面波が垂直入射する解析方法を適用できる。
二次元大地に平面波が垂直入射する場合、マクスウェルの方程式は2つのモードに分離する。これらはTMモード、TEモードと呼ばれる。
TMモードは地下構造と磁場変動方向とが平行な場合であり、具体的には断面に対して垂直方向に磁場が変動する場合に当たる。TEモードは地下構造と電場変動方向とが平行な場合である。
今回の探査は、CSMT測点の並ぶ方向(測線方向)とアンテナ方向とが平行であり、近似的に磁場変動方向が断面に対して垂直方向に変動する場合に相当し、すなわち、TMモードに相当する。
TMモードの式はマクスウェルの方程式から導かれ以下のようになる。
▽2 H+k2H=0 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2.4)
k2 =μεω2−@μσω≒−μσω
ω =2πf
μ:透磁率 ε:誘電率 f:周波数 σ:電導率 @:複素数
(2.4)式は有限要素法で解くことができる。
逆解析の方法は一次元逆解析の場合と同様であり、各周波数毎に各測点で計算上の見かけ比抵抗値と測定での見かけ比抵抗値との差が最小となるように非線形最小2乗法を用いてモデルを修正する。この過程を数回繰り返し、測点での地盤構造として測定値に最も近い見かけ比抵抗曲線(ρa−f曲線)を描くモデルを捜し出し、比抵抗断面図を得た。
○解析手順と結果の整理
2次元逆解析の解析手順を以下に示す。
@ アンテナ方向とほぼ平行に数本の測線を決める(解析は「測線方向と直交した方向 に生じた磁場によって誘導される電場」TMモードと呼ばれる条件の基で行った)。
A 1/25,000地形図を基に各測線の地形座標を作成する。
B 地形座標から有限要素法での計算のため要素図を作成する。いくつかの要素を一つのブロックととらえ、断面全域をブロックに分割する。
C 測定値と上記の地形情報を入力し、図2−2−4の二次元逆解析フロー図に従い各ブロックの比抵抗値を求めた。
D 各ブロックの値を基にコンター区分し比抵抗断面図を得た。
○二次元逆解析の特徴
極表層の局部異常が地下深部の構造決定に影響をおよぼすスタティックシフトと呼ばれる影響を取り除くことができる。
地形によるデータの歪みを取り除くことができる。
○収束性のチェック
計算で得られた見かけ比抵抗図と測定で得られたそれとをコンター区分し、収束性の判断図とした。計算が正常に作動している場合ほど両者の図は同様なものとなる。
図2−2−4 二次元逆解析フロー図
以下に探査結果を示す。
B 一次元逆解析
図2−2−5、図2−2−6に一次元逆解析の結果得られた比抵抗柱状図を示す。
一次元逆解析では、地盤を水平多層構造と仮定し解析を行っているため、断層などの比抵抗異常は、より強く柱状図の中に反映されていることが多い。
以下、各測線について述べる。
[A 測線]
主として数十〜数百Ω・mの比抵抗値が分布する中で、測点A5の比抵抗値が著しく高い。この付近に比抵抗異常をもたらす地下構造の存在が予測できる。
[B 測線]
測点B12〜B15までは、主に数十〜数百Ω・mの比抵抗値が分布するとともに、各比抵抗柱状図が類似する。
測点B12〜B15では、主に数十〜数百Ω・mを示す。
このような結果から、測点B11とB12との間に両サイドの比抵抗構造を変化させるような地下構造が推測される。
C 二次元逆解析
図2−2−7に要素、ブロック図、図2−2−8、図2−2−9に収束状況図、図2−2−10に解析結果を示す。
二次元解析の色パターンは暖色系を低比抵抗値、寒色系を高比抵抗値で示した。
今回の場合、A 測線と比較してB 測線の方が収束性が良かった。
これはA 測線のデータの一部に雑音の大きいものがあったことと、地下構造もB 測線に比較してA 測線では変化が著しかったことに起因していると考えられる。
図2−2−8(A 測線)によると測点A5での収束状況は良くないが、大局的な比抵抗状況は良く整合している。
[解析結果](図2−2−10)
○A 測線
測点A1〜A4(高遊原台地)の表層から標高−250m付近までは128Ω・m以上の高い比抵抗値(紫の部分)の地層が水平に分布する。測点A4,A5の中間点から測点A6間は同様な比抵抗値の地層の下限が−600mまで下がっている。さらに、比抵抗値の小さい(赤色部分)の上限も北側が標高−400mで、南側が標高−300mに低下する。このような比抵抗値の層の段差が断層を示唆していると考えられ、このA4,A5の中間点は位置的に木山断層であり、段差の傾斜がほぼ垂直であり、木山断層が高角度で南側低下の断層であると考えられる。
測点A4付近はAso−4火砕流堆積物が広く分布し、その下には高遊原溶岩が分布するので、128Ω・m以上の高い比抵抗値(紫の部分)の地層はAso−4火砕流堆積物や高遊原溶岩に相当する。この地層の下の比抵抗値の小さい部分(緑色〜赤色系統)の地質は不明である。
測点A5〜A6間の比抵抗値64〜128Ω・m(水色)は木山川の谷底を埋積した形状を示していて、沖積層や更新世の地層に相応するものである。その下の128Ω・m以上の高い比抵抗値(紫の部分)の地層はAso−4火砕流堆積物以前の水の通りやすい火砕流堆積物や溶岩と推定されるが、地質が何であるかは不明である。
測点A6付近は、地表浅部の比抵抗値64〜128Ω・m(水色)の地層に段差がなく、断層の存在は予想されない。この付近で上記の地層の下の128Ω・m以上の高い比抵抗値(紫の部分)の地層の下限は南側低下の落差が認められる。しかし、一般的に布田川断層は北側低下が考えられているので、この段差も布田川断層を示唆するものと判断できない。
したがって、この測線では木山断層の分布が推定されるが、布田川断層を示唆する資料は得られなかった。
○B 測線
測点B1〜B12間は比抵抗変化の少ない2層構造(地表付近の緑系統の64〜16Ω・m層と黄色/赤色の16Ω・m以下の層)を示す。その境界は凹凸が多いが、深度方向に系統的な段差を示さず、断層を示唆していない。
測点B12、B13間で16〜32Ω・m層の下限は、北側が標高−200m、南側が標高−500mで300mの南側低下を示し、8Ω・m以下の層(赤色部)の上限が、北側で標高−300m、南側が標高−600mで300mの南側低下を示す。しかし、8Ω・m以下の層(赤色部)の下限は全く段差がなく、断層を示唆していない。この付近は北甘木断層の延長上に位置するが、この結果からは、この断層が西方に延びる結果は得られなかった。
測点B13からB15にかけては比較的深部まで高い比抵抗値の地層が分布する。この違いは沖積地と山地の地質状況を反映したもので、断層を示唆する比抵抗値層の段差は認められない。
今回の調査では、測点間隔が500〜1000mと比較的広いためその区間内にある小さな断層については検出できなかったものと考えられる。また、測点A4とA5との境界も、その間のどこで比抵抗値が変化するかは不明である。
図2−2−5 A 測線 比抵抗柱状図
図2−2−6 B 測線 比抵抗柱状図
図2−2−7 二次元逆解析要素、ブロック図
図2−2−8 A 測線 二次元逆解析収束状況
図2−2−9 B 測線 二次元逆解析収束状況
図2−2−10 二次元解析図(A測線,B測線)