(2)リニアメント

(1)リニアメント区分基準

リニアメントの判読には、地形形態、基準地形、比高等を整理し、地形的特徴、連続性、明瞭さなどの要素から変位地形の可能性が高いLA、変位地形の可能性があるLB、変位地形の可能性が低いLCおよび変位地形の可能性が非常に低いLDの4ランクに区分した。

リニアメントの判読には以下の点に留意した。

@ 地形形態、連続性、連続方向、比高、変位の向き等の地形要素および基準地形の新旧等により、リニアメントが断層等の構造運動に起因した変位地形であるか否かを検討した。

A それらの地形が、最近まで繰り返し活動した活断層の累積的変位を反映したリニアメントであるか否かについて、さらにその位置を確実に認定できるか否かについて検討し、その確実性の高いものから順に4ランクに区分した(表2−1−1)。

各ランクの内容は以下の通りである。

LAリニアメント

変位地形と認定できる複数の地形要素が認められ、他の成因による可能性が否定できるもの。さらに新しい基準地形に変位の累積性が認められ、その位置が確実に認定されるもの。しかし、今回の調査範囲では、この区分に相当するものは認められなかった。

LBリニアメント

変位地形と推定できる地形要素および新しい基準地形に変位の累積が認められ、他の成因が考え難いもの。さらにその位置もほぼ確実に認定されるもの。

LCリニアメント

変位地形と推定される地形要素が認められるが、リニアメントの両側の基準地形が同一面であるか否かの認定に不確実さがあり、その他の成因による可能性が残るもの。あるいは、地形的に比較的大きな不連続が認められるものの新しい地形面上での変位が不明確なもの。

LDリニアメント

直線性のあるリニアメントであるが、基準地形が古いか認定の地形がやや解析の進んでいるもの。また、新しい基準地形に認められるリニアメントで比高が小さいか、延長が短いため、変位地形かその他の成因によるものか識別が困難なもの。

(2) 判読結果

調査地域の空中写真判読結果を図2−1−2に示す。また、リニアメントの判読結果を既往文献と比較し表2−1−2−1表2−1−2−2に示す。

顕著なリニアメントを以下に記述する。

布田川断層にほぼ対応したリニアメントが長陽村立野から北西方の大峯の北麓を経て益城町砥川に至る約20km間をNE−SW方向に延びる。このリニアメントはほぼ連続して判読され、大部分がその区分は概ねLBで、一部がLC、LDである。

このリニアメントは、砥川付近で南方から延びてくるNNE−SSW方向の日奈久断層に対応するリニアメントと接合するように見える。

しかし、布田川断層沿いのリニアメントの延長部にあたる益城町北甘木付近にも、日奈久断層のリニアメントを切るように、NE−SW方向に延びるリニアメントが判読される。このリニアメントが北甘木断層とされるものである。

長陽村立野〜益城町砥川間のリニアメントを3区間に分け記述する。

@長陽村立野〜西原村大峯間

本区間5km間では、山間地の高位段丘面の傾斜変換部や鞍部や緩斜面内の傾斜変換部等からなる概ねLCリニアメントよりなり、一部がLDリニアメントからなる。これらリニアメントは小沢や緩斜面で切られ、断続する。

○長陽村立野付近〜西原村大峯

この区間の長陽村立野から扇ノ坂区間では、高位段丘面の緩やかな傾斜変換部からなるLDリニアメントと鞍部を伴う急崖からなるLCリニアメントの2条が認められる。

扇ノ坂以南の区間は、大峯南より南西部のl−a、l−bに見られる比高の大きな崖からなるリニアメントに比較し不明瞭でほぼLCリニアメントである。このリニアメントは俵山や大峯の火山斜面の北西縁を連続するが、尾根状を呈する扇状地面あるいは崖錐性の緩斜面では認められない所もあり、断続的である。この扇ノ坂〜大峯間の断続するリニアメントは1条である。

A西原村大峯南〜益城町畑中間(1−b)

本区間のリニアメントは、NE−SW方向に連続する北西側が低い崖の直線状配列からなり、木山川沿いの沖積低地およびその南東側の火山山麓に分布する段丘面を横切って連続するLBリニアメントからなる。

大峯南から益城町下陳間では、リニアメントの南東側にAso−4f1、Aso−4f2面およびTa3面が分布する。一方リニアメントの北西側の布田川左岸ではTa1面〜Ta3面および Aso−4f2面等が分布し、各面はいずれも南西に傾斜している。下陳〜畑中間では段丘 面間や段丘面内の低崖を通るLBリニアメントと山間地の鞍部や尾根の段差によるLCリニアメントの並走する2条からなる。

○西原村大峯南〜西原村秋田北

本区間の約4km間は、西側の段丘区分布域と東側の火山山麓斜面の西縁を限る比高20〜100mの崖として識別されるLBリニアメントが1条認められる。

リニアメント両側の地形面はいずれも地表面に緩い凹凸のある溶岩台地状〜扇状地状を呈し、リニアメントを挟んだ地形形態は類似する。このことから崖を挟んで両側の地形面の高度差が変位量を示すものと推定され、Aso−4f2面で約80m、Ta1面で約 100m北西側が低い高度不連続が認められる。崖面はほとんど開析が進んでおらず新鮮である。

○西原村秋田〜益城町下陳

この区間約3kmでは、連続の良いLBリニアメント(一部はLC)が認められる。

本区間のリニアメントの益城町下陳から西原村星田に至る区間では北西側に凸な弧状を呈している。リニアメントが最も張り出した益城町杉堂の南西では、木山川に沿ってリニアメントの崖下に沖積低地がクサビ状に発達する。

表2−1−1 リニアメント区分基準

活断層研究会(1991)は、この区間で75m右横ずれと認定しているが、谷の位置の記載がなく、今回の判読でも確認されなかった。

○益城町三竹〜同町畑中

本区間の約2.3km間ではL2面、L1面、尾根等の分布域とその北側の木山川沿いの沖積低地との境界付近にLBリニアメントが認められ、L2面、L1面、尾根の北縁を直線状に限る急崖からなる。急崖の方向は木山川の流路方向と並走するが、崖が異なる時代の地形面を切り、直線状に連続することから変位地形である可能性が高いと判断した。

さらに上記のリニアメントの約200m山側には、鞍部、V字状の谷、崖等の直線状の配列からなるLCリニアメントが平行に走る。

○益城町畑中南〜同町砥川間(l−a)

この区間では、赤井付近に崖が平面的な広がりを有し、かつその基部が直線上を示す急崖からなるLCリニアメントが認められる。

中尾付近の扇状地では、踏査および簡易測量を行い、LDリニアメントに相当する位置に低崖(3m程度)が認められた(図2−1−3)。

○益城町小池〜熊本市北甘木(2−a,2−a',3−a)

この区間は、南南西に延びる沖積低地で南側の山地と切り離された丘陵地である。この丘陵地の最も高い平坦面M2面の北西側と南東側でLBリニアメントが分布し、北西 側のそれ(2−a')は北東―南西方向に延び、L1面の北西縁をくぎっている。このリニアメントはM2面やL1面を北西へ傾動させている(図2−1−4)。南東側のリニアメント(3− a)は南南西−北北東に延び、南東側の低下で、M2面やL1面の北東縁に位置する。2− a'リニアメントの北西側200m付近に北側のL2面やL3面を区切る南東側低下のLCリニアメント(2−a)が識別される。

なお、地形判読結果から見た横ズレ変位は以下の通りである。

○西原村大峯〜益城町砥川間ではリニアメントの下流側で谷幅が広がるものの、段丘面の分布状況や河道の系統的な屈曲を認定できる地形は認められない。

○福原から下陳に至る間ではLBリニアメントの約200m山側のLCリニアメントに沿 って、平田町民グランド東側の小河川にわずかではあるが右方向への屈曲が認めら れる(図2−1−5)。しかし、この屈曲はこの沢に限られる。

木山川の右岸側では高遊原の台地の南端が比較的直線上に東北東−南南西の急崖が続き木山断層の推定根拠となっている。しかし、今回の判読では、急崖には多くの曲面があり、細部が崩壊地形で乱されていて、リニアメントとしては判読されない。

図2−1−2 空中写真判読図

図2−1−3 益城町中尾付近の簡易測量図