(3)考察

これまでに述べた(a)〜(c)の地震記録地質現象についてまとめると、以下のようになる。

・断層F1は、3層下部までに変状を与えている断層である。ただし、総変位量・イベントの回数ともに詳細は不明であるが、2回以上活動した可能性がある。

・断層F2は、5b層中部までに変状を与えている断層である。ただし、総変位量・イベントの回数ともに不明であり、従って1回当たりの変位量も不明である。

・亀裂C1は、3層の堆積以前に発生したと考えられ、状況からは、断層F1が4層に大きな変状を与えた活動に伴って発生した可能性がある。

・亀裂C2wは、5b層の堆積中に発生したと考えられ、状況からは、断層F2の活動に伴って発生した可能性がある。

・3層以下の地層の傾斜は、断層活動に伴う地盤の傾動であると考えられる。これは、4層中のAT火山灰までは確実に影響を与えているが、3層全体も傾動後、削剥された可能性が高い。

また、トレンチで観察された地層の層序に、断層等の地質現象、そして試料分析結果について模式柱状図に示すと図3−6−2−4の様になる。

図3−6−2−4 トレンチ模式柱状図

前節までの観察・分析結果より、高塚B地区における断層活動履歴について、以下に示す5回のイベントを判定した。時期の古いものから順に示す。

イベント@

イベント@は、断層F1'Eにおける変位をもとに判定したものである。ここでは、基盤である6層(Aso−4)上面に変位を与えているが、5c層(Aso−4二次:礫質部)の上半部から上位には断層が延長せず、5c層内部で消滅している。従って、5c層の堆積中(下面形成以後〜上面形成以前)に、少なくとも1回の断層活動があったものと判定した。

活動時期については、5c層中位の年代分析結果を用いて、32,540±400yBP付近とする。

(活動時期)... 5c層堆積中

(適用年代)... 32,540±400yBP付近

        (5c層中部)

イベントA

イベントAは、断層F2及び亀裂C2wをもとに判定したものである。F2では、6層上面から5c層上面まで、断層が連続的に山側落ちの変位を形成しているが、5b層の上面には全く変位が生じていない。

また、亀裂C2wについては、断層F2の上限とほぼ同層準まで連続しており、F2の活動に伴って同時期に発生したものと判断される。

これらの観察結果より、5c層の堆積終了後、5b層の上面形成以前に少なくとも1回のイベントがあったものと判定した。

(活動時期)... 5c層堆積以後〜 5a層堆積以前

(適用年代)... 32,540±400yBP〜26,410±330yBP

   (5c層中部) (4B層最下部)

イベントB

イベントBは、断層F1及び亀裂C1における4層の変状をもとに判定したものである。F1は、基盤である6層上面に約20cmの変位を与え、その延長は少なくとも4層の上面までは追跡される事から、4層形成後に少なくとも1回のイベントがあったものと判定した。

また、4層と3層の不整合等の状況から判断して、4層形成後、3層形成以前に生じたこのイベントは、比較的大きな地形変位を生じる規模のものであったと予想される。

(活動時期)... AT火山灰堆積以後〜3層堆積以前

(適用年代)... 22,000〜25,000yBP〜18,930±110yBP

     (AT火山灰)    (3層最下部)

イベントC

イベントCは、断層F1における3層最下部の変状をもとに判定したものである。ここで認められる変状は、3層最下部の砂層が、わずかに断層F1と連続して、4層中に引きずり込まれているものである。ただしこの構造は、形態や規模・あるいはイベントBとの短い活動間隔から、3層形成以降のイベント(イベントD)によって、断層F1が受動的に動いて形成されたと考えることも可能である。

鉛直変位量については、西壁面の4層と3層の地層境界が山側で若干低下しているが、断層変位としては検討の余地が残される。

活動時期は3層下部の堆積後〜3層中部堆積中と考えられ、3層最下部の年代分析結果を用いて、32,540±400yBP付近とする。

(活動時期)... 3層下部の堆積中

(適用年代)... 18,930±110yBP付近

     (3層最下部)  

イベントD

ベントDは、3層の傾動及び2層との不整合により判定したものである。トレンチの観察結果からは、3層は傾動した後、削剥されており、3層形成以降〜2層形成以前に少なくとも1回の活動があったものと判定した。

(活動時期)... 3層堆積以後 〜 2層堆積以前

(適用年代)... 10,700±60yBP 〜  6,300yBP

          (3層上部)   (アカホヤ火山灰)

 

高塚B地区トレンチにおいて判定されたイベント@〜Dについて、表3−6−2−5「断層活動時期一覧表」に示す。

表3−6−2−5中の断層の活動間隔は、活動時期を1つの値に固定して算出した。イベント@及びCについては、1つの年代測定値に対応させたため、その値を用い、イベントA,B,Dについては、暫定的に年代幅の中央値を用いて算出している。

表3−6−2−5 断層活動時期一覧表

高塚B地区トレンチ』において観察された地震記録地質現象をまとめると、以下の通りとなる。

・当地区で確認された地震記録地質現象は、「断層」・「亀裂」・「傾動」である。

・当地区で判定された断層活動履歴は、次の5回のイベントである。

図3−6−3

・垂直変位量は、基盤の6層(Aso−4)の上面に20〜30cm程度の変位が認められるが、変位の方向は一定ではない(海側隆起が卓越)。

・観察結果より、断層が水平変位を伴うことは確実であると判断されるが、その変位量は不明である。

・一回の断層運動による変位量は、垂直、水平変位量ともに不明である。

・最新活動時期は、イベントDの年代より10,700±60yBP〜6,300yBPとなる。

前章までの調査結果を踏まえ、日奈久断層全体に対する高塚B地区トレンチの位置づけを考察すると、当地区は複数想定されるセグメントの接点(乗り換え部)、あるいは1つの小規模なセグメントとして捉えるほうが現実的であり、さらに副次断層の一つである可能性が高いと考えられる。