(2)調査結果

@地質構成

トレンチの壁面で観察された地質は上部から下部に述べると次の通りである。

写真3−6−2−1)にトレンチ全景写真、図3−6−2−2にスケッチ、図3−6−2−3に地層区分図を示す。

以下にそれぞれの地層について記載する。

図3−6−2−1 トレンチ位置図(Sc,1:400)

写真3−6−2−1) 高塚B地区トレンチ展開写真

図3−6−2−2 トレンチスケッチ

図3−6−2−3 トレンチ地層区分図

○6層 軽石凝灰岩(Aso−4 火砕流堆積物)

トレンチの基底に分布する灰色〜暗灰色の軽石凝灰岩から構成されるAso−4 火砕流堆積物である。複数の断層による変位を伴いながら、全体としては北側に緩く傾斜している。トレンチの北半部では、トレンチ底面以深に分布するものと思われ、直接確認できない。ボーリングデータによると、全層厚は5〜8mと推定される。

○5層 凝灰質砂礫(Aso−4 二次堆積物)

灰色の凝灰質砂礫からなり、その締まり具合等からAso−4 火砕流の二次堆積物として区分している。炭化した木片を僅かに挟在するほか、全層準にわたって直立した植物根を多く含む。植物根については、壁面のパイピング孔中で下方に放射状に拡がっていることが確認されているため原地性のものと判断される。

本層は5a,5b,5cの3層に細分される。最下位の5c層は砂礫を主体とする堆積物であり、軽石、頁岩の角礫を多く含む。局所的に粗粒の砂層を挟むこともある。

5b層は、灰白色の凝灰質シルトを主体とする堆積物である。

5層最上位の5a層は暗灰色を呈し、有機質に富むシルト層であり、クサリ軽石を多く含む。また、トレンチの南壁面では、上位の4B層との地層境界はやや不明瞭であり、まだら状を呈することもある。

○4層 有機質土

シルト〜粘土を含む高有機質土であり、黒色〜暗褐色を呈する。また、4層は、AT火山灰も含め全体に北に傾斜しているが、北ほど垂れ下がるように傾斜角を増す。4層は明褐色の砂層(中粒〜粗粒)を挟み、ここから姶良Tn火山灰のガラスが検出されている。 姶良Tn火山灰を含む砂層は、4層のほぼ中位にあり、この砂層より上位の有機質土を4A層、下位を4B層とする。AT火山灰を含む砂層は、トレンチの北東側で上下層と混じりあい、その境界は北側ほど不明瞭となっている。

下位の4B層は黒色を呈するシルト主体の有機質土である。よく締まっており、垂直に立つ植物根を全体に多く含むが、植物片が水平に重なる薄層も挟在している。4B層の層厚は、断層のあるE−0付近では約50cmとやや厚く、西壁面では20〜30cm程度で一定の層厚を保って連続する。

4A層は黒色〜暗灰色を呈するシルト〜粘土からなる有機質土である。4B層と同様に植物片を挟む。層厚は西壁面では0〜40cm程度であるが、東壁面においては4B層との境界が不明瞭ながら、60cm以上の層厚を有する。また、4A層は上位の3層の侵食を受け、層厚は一定でない。

AT火山灰を含め、4層全体の層厚は西壁面で50〜70cm、東壁面で70〜90cmとなっている。

○3層 礫混じりシルト

茶褐〜黒褐色を呈する礫混じりシルトであり、北ほど有機質シルトが卓越し、礫は減少する。礫は亜円〜亜角礫の軽石が多く、礫径はφ1〜2cm程度である。最下部は礫層を形成し、断続的な分布を示す。また、下部には灰白色の凝灰質シルト層がレンズ状に分布する。本層の西壁面では炭質物の濃集する薄層が3〜5枚確認される。3層自体は北に傾斜しているが、上位層(2層)の侵食により3層の上面は水平に近く、見かけ上の層厚は北ほど厚くなっている。また、トレンチ南東部では、2層の侵食のため3層が欠如している部分があり、4層上に直接2層が分布している。

○2層 礫混じり砂

淡緑色を呈し、礫混じり砂を主体とする層である。全体に基底に礫層が分布する。2層は西壁面と南壁面では連続しているが、東壁面では薄くなり断続的に分布している。下部にガラスを含んだ細粒の砂層を挟み、アカホヤ火山灰に相当するものと考えられる。下位の地層と比較して、ほぼ水平な地層を形成し、層厚は最大50cm程度である。

○1層 礫混じり粘土

青灰色を呈する粘土を主体とする地層である。本層中からは人工的な遺構や遺物が出土しており、有史時代の堆積物であると考えられる。1層は、下部より1c層(砂礫)、1b層(礫混じり粘土)、1a層(耕作土)に区分される。

1c層は青灰色を呈し東側で厚く、層厚30cm程度である。この礫層からは、江戸時代のものと考えられる馬の蹄鉄が出土している。1b層は層厚1m以上であり、砂をレンズ状に挟むことがある。礫は1〜数cmの軽石のほか、20〜30cm程度の円礫を含むこともある。この粘土層の下部からは江戸時代のものと思われる陶器片が出土し、また、掘削時には一列に並ぶ木杭も出土した。1a層は20cm程度の厚さを有し、茶褐色の耕作土からなる。

Aトレンチ試料分析結果

トレンチ壁面から試料を採取し、年代測定及び火山灰分析を行った。以下に分析結果を示す。

a) 年代測定

2層〜5層までの各層準毎に試料を採取し、14C年代測定法により年代測定を行った。測定方法等については3.7節に示した。測定結果を表3−6−2−1に示す。測定の結果、各地層の年代は、壁面で観察される地層の層序と整合的なものとなった。

表3−6−2−1 トレンチ年代分析結果一覧表

b) 火山灰分析

4A層と4B層の間に挟在する砂層に火山灰が見いだされたため、その火山ガラスについて屈折率の測定を行い、年代を決定した。詳細は3.9節に示し、ここでは分析結果を表3−6−2−2に示す。

分析結果は、この火山灰が姶良Tn火山灰に相当することを支持している。その場合、4層の砂層の年代は22,000〜25,000yBPとなる。これは14C年代測定法による4A層、4B層の年代と比較して矛盾を生じていない。

表3−6−2−2 火山灰分析結果

c) 試料分析結果総括

a)及びb)で得られた結果に加え、既往調査その他により得られた各地層の年代をまとめると、以下の表3−6−2−3のようになり、地層の層序に対して整合的な結果が得られた。

表3−6−2−3 トレンチにおける各地層の年代

B地震記録地質現象

高塚B地区トレンチでは、断層運動に起因すると考えられる構造が観察された。これらは東壁面及び西壁面において観察され、両壁面での連続性等より2組の断層として判断される。

また、断層そのものではないが、断層活動に起因して生じたと考えられる亀裂と流入物、及び地層の傾動が確認されている。これらの観察事項を以下の3項に区分し、個別に観察結果を記す。

(a)断層・・・・・・・地層の変位を伴った亀裂及び不連続面。

(b)亀裂・・・・・・・地層の変位が不明確な亀裂及び不連続面。

(c)傾動・・・・・・・断層活動に起因して生じたと考えられる地層の傾き。

(a)断層

トレンチ調査で確認された断層の観察結果を表3−6−2−4に示す。また、(写真3−6−2−2写真3−6−2−3写真3−6−2−4写真3−6−2−5)にトレンチ壁面及び断層の写真を示す。

前掲の図3−6−2−2に示すように、壁面間で連続性があると考えられる断層は、F1E−F1w、そしてF2E−F2wの2組である。前者をF1、後者をF2とする。

F1は、トレンチの最も南側に見られる断層であり、3層下部まで断層による変状が認められる。ただし変位の確認できるのは、5層(Aso−4二次)と6層(Aso−4本体)の境界であり、ここに20〜40cm程度の変位が認められる。しかし西壁面と東壁面では変位の方向は一致せず、また、断層を挟んで両側の地層の厚さが一致しないので、横ずれ成分を有するものと考えられる。

東壁面においては、5層及び4層においてもみかけ上変位が観察される。それは4層中のAT火山灰層を基準として、約40cmの海側隆起として認められる。ただし、下位の地層とは変位の向きが逆であり、これを変位量とする事には疑問が残される。

3層に認められる変状は、西壁面においてのみ認められ、W0付近の4層最上部(ここでは4B層)中に、僅かながら3層が入り込んでいるのが観察される。

東壁面のF1Eには隣接してF1'Eが存在し、これがAso−4上面に山落ち約20cmの変位を与えているため、両者の間でAso−4は、地溝状に落ち込んでいるように観察される。F1'Eは、5層下部の凝灰質砂礫まで追跡可能であるが、西壁面に対応する断層は確認されていない。

F2は、トレンチの西及び東壁面の中央近く(W2,E2付近)に確認される断層である。この断層はトレンチ基底の6層から5層までは確認できるが、5層中で追跡困難となり、4層中では確認できない。変位は、5層(Aso−4二次)と6層(Aso−4本体)の境界に、見かけ約20〜50cm程度の海側隆起が認められる。5層中では両壁面の断層とも、断層を境して両側に対応する地層が確認されず、断層F2において複数のイベントは読みとれない。この断層は西壁面では枝分かれ状に2条確認されるが、東壁面では1条のみである。

断層F2とF1とを比較すると、この2つの断層は「各々異なる地震活動を示している」あるいは、「F1は、F2以降の地震活動を記録している」可能性が指摘される。

(b)亀裂

トレンチ壁面において亀裂は計4条確認される。このうち、W3及びE2付近のものは、形状等から連続する1つの亀裂であると考えられる。また、W2付近の2条はトレンチより深いところで枝分かれしたものであると考えられる。ここでは前者をC1、後者をC2wとする。

C1は、いずれの壁面においても4A層から下方に伸びて、5層の最下部で消滅している。また、4層の有機質土が下方まで流入しており、4A層上部では確認が困難となる。亀裂の傾斜方向は西壁面がS、東壁面がNであり異なるが、傾斜角は70゜〜80゜と高角度である。いずれも4A層中で2,3条に枝分かれしている。

この亀裂は、分布上限の地層や挟在物から、4層に大きな変状を与えた断層F1の活動に伴って発生した可能性が考えられる。

C2wは、西壁面においてF1〜F2間に確認される2条の亀裂であり、東壁面との対応は不明である。この亀裂の間には6層及び5c層が落ち込んでいることから、開口性を持った1条の亀裂である可能性が高い。F2と同様に5c層上面に変形を与え、5a層に変状を与えていないことから、F2の活動に伴って発生したものと考えられる。

(c)地盤の傾動

上記(a),(b)以外で、本トレンチにおいて断層活動に起因すると考えられるものとしては、地盤の傾動が挙げられる。

本トレンチでは、写真やスケッチに示すように、2層より上位の地層はほぼ水平に堆積しているが、3層から下位の地層は緩やかに北傾斜している。このうち、有機質土(特に4層)が傾斜していることは、堆積後に断層活動などの何らかの理由によって地盤が傾動したことを示しているものと考えられる。

本トレンチで観察された4層の場合、間にAT火山灰が挟まれており、この層準は同時代面であると見ることができる。4層は下位の地層と同様に北に傾斜しており、これに挟まれるAT火山灰も調和的に傾斜している。先に述べたように、有機質土の堆積時に堆積面が水平であったと仮定すると、AT火山灰の堆積後に、少なくとも一度はこの一帯が北に傾動したものと考えられる。

また、3層については、2層との境界は水平に近いものの、3層自体は北に傾斜しており、かつ、南側ではかなり削剥されていることから、3層も傾動しているものと考えられる。

従って、AT火山灰あるいは3層堆積後に、周辺の地盤が傾動するような断層活動があったものと考えられる。

表3−6−2−4 高塚B地区トレンチ 観察結果一覧表

写真3−6−2−2

写真3−6−2−3

写真3−6−2−4

写真3−6−2−5