領家帯と黒瀬川帯を区分している臼杵−八代構造線は、球磨川河口付近に存在しており、東北東−西南西方向に延び、高角度傾斜であるといわれている(勘米良,1986)。また、この構造線は中央構造線の西方延長と考えられている。
@ 領家帯
本調査域の領家帯としては、南より肥後変成岩類、宮の原トーナル岩、竜峰山変成岩類が分布している。
1) 竜峰山変成岩類
ア.砂岩・頁岩層(loc.Y1)(写真31)
本層は八代市北東方の竜峯山周辺に分布している。構成は石灰質の砂岩,珪質頁岩のほか,片岩などよりなるが、目立った片状構造が見られない。走向・傾斜は北東−南西,北傾斜を示すものが多いが、中には東西走向を示すものもあり構造的に乱れていることが多い。
イ.結晶質石灰岩(loc.Y2)(写真32)
本層は,竜峯山地域を中心に分布する。片理等の認められない塊状岩盤で、節理も比較的少ない。また、再結晶作用を受けていることにより岩質的にかなり硬質である。
2) 肥後変成岩類
本変成岩類は片麻岩を主体として小川町付近を中心に分布しており、一部は宮の原トーナル岩と接している。主構成鉱物は斜長石、石英、角閃石、黒雲母であり、縞状構造を示す(loc.O1)(写真33)。また、一部結晶質石灰岩を挟在していることがある。この結晶質石灰岩は砂川沿いで確認されるが、再結晶作用を受け極めて堅硬・緻密な岩質を示すとともに、北西−南東方向の節理が発達している。
なお、娑婆神峠付近では、日奈久断層と考えられる北東−南西方向のリニアメント沿いに断層露頭が確認された。断層部分は直径1〜3cmの角礫を含む粘土になっており、またそれに沿う安山岩の貫入が認められる((財)原子力発電機構(1996)図1−2−1−10参照)。
3) 宮の原トーナル岩
本岩は、小川町より八代市竜峰山周辺にかけて分布している。主に塊状の産出を示し、細粒化している部分もある。斜長石、石英、角閃石、黒雲母を主構成鉱物とする花崗閃緑岩状の地層を主体とするが、片岩状あるいは片麻岩状部分も存在する(loc.R1)(写真35)。これらの地層は、露頭では風化が著しく進み土砂(マサ)状になっていることが多い(loc.O2)(写真34)。
本層中で確認されている断層は少ないが、宮原町原巻田地区において日奈久断層(走向N30゚〜40゚E、傾斜80゚〜86゚W)と同系統の断層が確認された(図2−3−2−1参照、loc.M1)。ただし、この断層が第四系を切っているかどうかについては地表踏査では不明である。
A 黒瀬川帯
本調査域の黒瀬川帯は、球磨川河口付近のいわゆる臼杵−八代構造線以南に分布している。松本・勘米良(1949英)によれば、黒瀬川帯は下位より八竜山層・日奈久層・八代層・砥用層に区分されている。
八竜山層は主に八代市南方に分布しており、礫岩、砂岩、泥岩からなる浅海成層である。日奈久層は、日奈久付近を中心にして八竜山層とは不整合関係で分布している。主に砂岩と泥岩の互層より構成される。基底部では礫岩が分布しており、褶曲構造がしばしば見られる。八代層は、礫岩・砂岩・泥岩から構成されている。著しく粗粒な礫岩・砂岩を含み、化石を多く含んでいる。砥用層は、臼杵−八代構造線の南側に分布し、八代層を不整合に覆っている。礫岩、砂岩、泥岩から構成され、上半部では砂岩・泥岩の互層も見られる。
以上のように、日奈久帯を構成する地層は砂岩・頁岩・礫岩を主体とする地層であるが、今回調査地域ではとくに砂岩が多くなっており、それに挟まれる形で頁岩・礫岩が分布する形となっている(写真36)。
砂岩は調査域内に広く分布しており、粗〜中粒砂岩が厚さ30〜100cm程度の層状をなしていることが多い。走向は一般に東北東−西南西走向を示しているが、傾斜については一貫した傾向がなく不規則である。これは、褶曲などの影響によるものと考えられる。頁岩は、砂岩と互層をなす形で分布することが多い。岩質的には硬質で弱い剥離性を有するものが多いが、塊状の泥岩に近いものも存在する。また、走向・傾斜については砂岩とほぼ同じ傾向を示す。礫岩は、主に粗粒砂岩より粒度が漸移的に変化する形で産する。礫は比較的よく円磨されており,礫質についてはチャート質のものが主体である。礫径は平均して15mm〜50mm程度である。
B 新第三紀貫入岩類
本調査域における貫入岩類は球磨川周辺部に多く分布している。安山岩質であり、角閃石、斜長石、石英を主構成鉱物とする。その貫入規模は小さく、幅5〜7mのものが多い。また、貫入方向としては北東−南西方向のものが多く、同方向の節理が発達している。