これらの文献を査読した結果、本調査の今後の調査計画に直接結びつくと思われる有意な情報は特に得られていない。しかし、日奈久断層に関連していると考えられる記載が2点見いだされたため、以下にそれぞれについて示す。
1)野寺遺跡(熊本県文化財調査報告書第41集)
野寺遺跡は、熊本県八代郡宮原町早尾の丘陵に位置する遺跡であり、地形などから地元史家達により古墳である可能性が指摘されていた所である。報告書の調査結果からは、江戸時代の遺構は見いだされたものの、古墳ではなかったことが記されている。調査は昭和53年末から昭和54年にかけて行われ、丘陵の頂部に十字に交差するトレンチを実施している。図1−2−2−2に、トレンチ配置図および第Vトレンチ断面図を示す。
第Vトレンチで観察された層序は、表土、褐色土(明褐色〜暗褐色)、凝灰岩、褐色土(炭素を含む)、花崗岩の風化した土の順となっている。このうち、炭素を含む褐色土は土層の状態から、花崗岩の強く風化した土が二次的に堆積した土と考えられている。断面図中央付近では、花崗岩の風化した土に凝灰岩が不整合に被っている様子が示されており、傾斜角は見かけ約75°となっている。この不整合面が断層である可能性が指摘できるが、基盤が古く、かつ断層を挟んで対比できる地層が見いだされていないため、現況では活断層であるとの判断は難しいと考える。
また、この遺跡は、空中写真によって判読されたリニアメントより約500m東側に位置している。
2)端の城古墳(九州地方活断層研究会 第1号「日奈久断層」)
端の城古墳は、熊本県八代郡竜北町野津に位置する野津古墳群の1つであり、約1400年前に築造された前方後円墳である。参考資料の表1−2−2−1の露頭観察表に示されている露頭は、発掘調査中に発見されたものであり、古墳の盛土を切る4条の断層らしきものが確認されている。古墳の築造年代から明らかに第四紀以降にずれが生じているといえるが、古墳や周囲の平坦地において断層地形は確認されていない。従って地層のずれが断層変位によるものかという点や、日奈久断層との直接の関わりについては不明な点が残されており、これらの解明が今後の課題であると記されている。
なお、この遺跡の付近には、今回調査においてリニアメントは判読されていない。
図1−2−2−2 野寺遺跡におけるトレンチ調査結果概要図 (参考資料or第4回委員会資料)
表1−2−2−1 露頭観察表(端の城古墳) (参考資料:最後のページ)