今回の調査では, 断層が通過する斜面 (高さ25m程度)を出来る限り整形し,これまで斜面の一部でしか表れていなかった断層を,上下にわたって追跡することができた。詳しい観察記録は付図1に添付し,これを縮小した図を図2−3に示した。
写真2−1 五助ダム上流地点の全景 (赤枠内が露頭整形・観察範囲)
図2−2 五助ダム上流地点露頭整形調査範囲
図2−3 五助ダム上流地点露頭スケッチ
写真2−2 五助ダム上流地点における断層の様子 (a)露頭上部 (b) 露頭下部
図に見られるように五助橋断層は, NE−SW方向〜N20°E方向の走向で,50〜60°北傾斜した主断層のほか複雑に分岐する副断層がみられる複雑な形態を示すことがわかった。断層により図右側 (南東側)の砂礫〜砂層は大きく引きずられ, 南東側に傾斜しており, この断層が大きな上下成分をもった断層であることもわかった (写真2−2)。断層により範囲をうけた砂礫〜砂層は, 断層近傍では含有炭化物が極めて少なく,14C年代測定を3箇所で試みたがいずれも年代は確定できなかった(求められた年代値は図2−3に示したとおり数百年〜数千年と極めて新しく, 現世の毛根など不純物が多く混入していたためとみられる) 。
一方,断層周辺の砂礫〜砂層を広く観察した結果,図2−4に示したように, 断層近傍の砂礫〜砂層は断層から離れるにつれ水平になり, 層の中位に腐植土層が挟まれることがわかった (写真2−3) 。この腐植土層は, 腐植土 (14C年代:AMS)及び材化石 (同:β線) とも約32,000年前の年代を示すこと, この層が下流部でアカホヤ火山灰 (約6300年前の広域テフラ) を含むいわゆる沖積層に不整合に覆われることなどから, 低位段丘
層に相当する地層と判断される。
以上の情報を総合すると, 五助橋断層は, 低位段丘層を見かけ上下方向に10m以上変位させており,第四紀後半でも活動的な断層であることが明確になった。
図2−4 五助ダム上流地点周辺の模式断面
写真2−3 五助ダム上流地点断層周辺の未固結砂礫層 (a)と中部に挟まれる腐植土層(b) 中部に挟まれる腐植土の14C年代は約32,000年前