6−4 小倉東断層の活動歴と変位量

以上3箇所のトレンチ調査によって、少なくとも2回の活動を認めることができた。また、小倉東断層は右ずれを主体とする活断層であることが明らかになった。これらの調査結果を表6−4にまとめて示す。

トレンチ調査から読み取ることができたeventは、上富野トレンチのevent−K1、志井トレンチのevent−S1・event−S2、母原トレンチのevent−M1・event−M2である。このうち、event−S2とevent−M2に関しては、複数のeventに対応する可能性もある。

これらのeventの発生時期を、図6−7に整理して示す。図6−7においては、上位の層準から伸びる根の年代測定値など、必ずしもその地層の年代値を示さないと判断されるものは表示していない。

すでに述べたように、上富野トレンチのevent−K1は、約1,000yBP〜約2,100yBPの間に、母原トレンチのevent−M1は、約2,300yBP〜約4,000yBPに発生している。後者の年代の方が若干古いものの、両者は極めて近接した時代に発生している。年代測定値のエラーバーを考慮すると、event−K1の年代値の下限とevent−M1の年代の上限とはほぼ重なってしまう(図6−7)。すなわち、両者は約2,200yBPに発生した同一のeventである可能性が極めて高い。志井トレンチのevent−S1の発生時期は、約1,600yBP〜約4,500yBPであり、event−S1も同一のeventである可能性が高い。

一つ前のeventは、志井トレンチのevent−S2と母原トレンチのevent−M2である。後者の発生時期は、約10,000yBP〜約11,000yBPである。年代測定値のエラーバーを考慮すると、その発生時期は約9,700yBP〜約11,500yBPとなる。志井トレンチでは、その確実度はやや低いものの、約4,500yBP〜約32,000yBPのevent−S2を認めることができた。このevent−S2の発生時期を詳しく特定することができなかったが、母原のevent−M2と同一のeventであるとしても矛盾は無い。

このように、3箇所のトレンチ調査によって、同一のeventを識別した可能性が高い。各トレンチの最新event(event−K1・event−S1・event−M1)が同一のeventであるとすれば、小倉東断層の最新活動時期は、約2,200yBPである。

また,event−S2とevent−M2が同一のeventであるとすると、小倉東断層の一つ前の活動時期は、約9,700yBP〜約11,500yBPの間である。

以上述べたように、調査範囲の小倉東断層が同一セグメントから構成されているのであれば、最新活動時期は約2,200yBP、2つのeventの間隔は約7,500年〜9,300年である。小倉東断層がこの間隔で活動すると仮定するならば、この断層は近い将来に活動して地震を引き起こす危険性が小さい活断層であると結論できる。

志井トレンチと母原トレンチでは、断層条線を観察することができた。それらによると、断層面の走向はほぼ南北方向で、断層条線は15〜30゚(志井トレンチ)、10〜15゚(母原トレンチ)であり、いずれも南へプランジしている。相対的な上下変位成分は西上がりであるから、小倉東断層は右ずれを主体とする変位を繰り返してきたことになる。

志井トレンチでは、小倉東断層の単位上下変位量は60cm以上である。また、母原トレンチ周辺では地形面に2.8mの上下変位が記録されている。母原地域では、単位変位量に関しては不明の点もあるが、2.8mが2回分の上下変位量であるとすれば、単位上下変位量は1.5m前後となる。

観察された断層条線が断層運動像を代表するとすれば、真の変位量は上下変位量の数倍に達することになる。断層条線は1回の断層運動中でも大きく変化しうるので、単純な計算でネットスリップを算出することには問題がある。しかしながら、かなり大きな右ずれがあることは確実であり、ネットスリップは2m程度以上に達する可能性がある。

表6−4 小倉東断層トレンチ調査結果