N面の断層F1は、Vb層の礫が直立しているが、Va層には変位は認められない(N8/1.5)。したがって、V層の堆積中にeventがあったことはほぼ確実である。これがevent−M1である。V層中には、長い堆積間隙を示す構造は認められないため、このevent−M1は、1回のeventに対応すると考えられる。S面においては、Vb層中の礫が断層F1の延長で急傾斜する(S7.3/1.25−1.5)。ただし、これは明瞭な変形ではなく、S面においてevent−M1の発生を示す確実な証拠はない。
最新のevent−M1の後に堆積したUb層・Uc層の年代は、約1,300yBP〜2,300yBPであり、event−MIを経験しているV層の年代は、約4,000yBP〜10,000yBPである(表6−3)。したがって、event−M1は、約2,300yBP〜約4,000yBPの間に発生したと推定できる。
W層は、断層F1の近傍では急激に傾斜を増して、ほぼ直立している(N7−8/1.6−2.0,S7.2/1.5−2.0)。これを不整合に覆うVb層には、これと調和的な構造はなく、Vb層はW層を傾斜不整合に覆っている。したがって、W層堆積後、Vb層堆積前にeventが発生したことは確実である。これがevent−M2である。ただし、これが1回のevent発生であることを示す証拠はない。W層とVb層の堆積年代によっては、複数のevent発生を想定することも可能である。
Vbの年代・W層の年代は、それぞれ約4,000yBP〜10,000yBP・約11,000yBP〜12,000yBP前後である。したがって、event−M2は、約10,000yBP〜11,000yBPに発生したと考えられる。
また、ここでも小倉東断層の変位様式が明らかになった。本断層は、西上がりの上下変位を示すことは既に明らかにされていたが、断層条線には上下変位を上回る右横ずれ変位が記録されていることが判明した。断層条線のピッチは10〜15度で、南へプランジしている。相対的な上下変位は西上がりであるので、小倉東断層は、右ずれを主体とする活断層であることになる。ネットスリップは上下変位量の数倍に達する可能性がある。
これまでは、小倉東断層はLL2面に、2.8mの上下方変位を与えているとしてきた。LL2面の構成層は、トレンチ壁面に出現したVb層かW層である。Va層は断層変位を受けていないので、eventの後に、断層変位を消し去ることなく堆積したと考えられる。Vb層がLL2面構成層であるとすると1回の、W層がLL2面構成層であるとすると2回のeventによって累積した断層変位量が2.8mである。小倉東断層は、右ずれを主体とする活断層であり、ネットスリップは上下変位量の数倍に達する可能性がある。したがって、Vb層をLL2面構成層とすると、最新event時の変位量が非常に大きくなる。なお、「2.8m」は地表の高度から求めた値であり、Va層とU層がどのようにLL2面を覆うのかによって、変位量自体も修正の必要がでてくる。これらの問題に関して、年代測定結果等をもとにさらに詳しく検討を続ける。