W層中の砂層と礫層は、断層F1の近傍で急激に傾斜を増してほぼ直立し、Vb層に傾斜不整合に覆われている(N7−8/1.6−2.0、S7.2/1.5−2.0;図6−6−1a,図6−6−2c・d)。またN面では、Vb層中の扁平礫は、断層F1付近において垂直ないしは高角度で傾いている(N8/1.5;図6−6−1a)。これらの礫の傾きは周辺のものとは明らかに異なり、断層F1の活動によって落ち込んでいると考えられる。S面では、断層F1の上方への延長部において、Vb層中の礫は周囲より大きな傾きをもち、引きずり上げられているように見える(S7.3/1.3;図6−6−2b)。ただし、確実な変位ではなく、S面においては断層F1によるVa層の変位は不明瞭である。
Va層には、断層変位にともなうと推定されるような異常は全く認められない。断層F2は、礫の配列から推定したものであるが、そのような構造はW層だけに認められ、上位のVbないしはVa層には異常は見当たらない。
本トレンチにおいては、NNE−SSW方向の高角断層面が露出した。断層F1の走行方向に、トレンチ床を整形し、断層の平面的な構造も観察した(図6−5−1、図6−5−2)。N面で落ち込んだVb層はS面に近づくにつれてせん滅する。断層面にはやや凹凸が見られるが、ほぼ直線状に連続する。この部分において、比較的明瞭な断層条線が観察できた。条線のピッチは10〜15゚であり、南へプランジしている(図6−6−3e,f)。相対的な上下方向の変位は西上がりであるので、本断層は右ずれの活断層である。上述したように、本調査地点において、沖積段丘面は上下方向に約2.8mの断層変位を受けている。観察された断層条線が断層運動像を代表するとすれば、真の変位量は10〜16mとなる。しかし、断層条線は1回の断層運動中でも大きく変化しうるので、この数値は参考値とする。いずれにしても、かなり大きな右ずれがあることは確実で、10mあるいはそれ以上の変位が累積している可能性がある。これが何回のeventによる量なのかは、次に検討する。