段丘礫層は風化が進んでおり、とくに上部の礫はクサリ礫化して赤色を呈する。礫層上にAso−4火砕流堆積物を確認できる地点(Loc.2〜5)のうち、両者の関係が最も明瞭に観察できるのはLoc.4である(図3−3)。ここでは、層厚2.3mのH面構成礫層が基盤岩を不整合に覆っている。礫層の上部には明瞭な赤色風化殻が形成されており、上部の礫は完全にクサリ礫となっている。礫の最大径は30cm程度である。また礫層の最上部には粘土化が進み、クラックの発達する古土壌が形成されている。その上に、赤色化したシャーベット状の赤色火砕流堆積物がのる。この火砕流堆積物は風化が進んでいるが、角閃石と火山ガラスが残存している。火山ガラスは、すべてバブルウォール型ものであり、一部には褐色を帯びた火山ガラスも認められる。火山ガラスの屈折率は1.5023−1.5109である(図3−4)。これらの特徴から、この火砕流堆積物は、ほぼ確実にAso−4火砕流堆積物(鳥栖火砕流)に対比できる。Aso−4の層厚は1m弱であり、その上位には最大径1cm程度の石質岩片の集積層と、褐色ローム層が堆積している。
これらの事実から、H面の形成後に土壌が形成され、その後にAso−4が噴出・堆積したと考えられる。日本においては、最終間氷期最盛期(酸素同位体substage−5e)に赤色〜褐色の風化帯が広範囲に形成されたことが指摘されている(松井・加藤,1962;町田ほか,1987)。また、顕著な赤色風化殻は、約50万年前以降の温暖期の繰り返しによって形成されたとされている(Sakaguchi and Okumura,1986)。したがって、H面の形成時期はsubstage−5eより古く、stage6(約14〜15万年前)以前であると推定できる。