図5−1 に横浜観測井の総合柱状図を示す。
反射法の深度断面図と坑井および測線位置図(1:50,000)を対比させた図を 図5−2に示す。また、深度1000m以浅の浅部を拡大した図を 図5−3に示す。図5−4に深度断面図の特徴的な反射面を追跡した解釈断面図を示す。
(1)横浜観測井の岩相および検層データの特徴
・地震波速度は、上総層群中では 2.0 km/s から緩やかに増加し、上総層群基底付近で 2.8 km/s 程度となっている。
・三浦層群中(深度約 1300 m 〜 2000 m)では、ほぼ一定で 2.9 km/s 程度である。
・上総層群中に礫の発達する層が数カ所確認でき、それに対応して速度検層が特徴的な変化を示している。この礫層部分からは、大振幅の反射波の出 現が予想される。
(2)反射断面図の特徴および序層区分の解釈
・A層とB層の境界面
*地表から深度 300 m 程度までの浅部反射面のうち、最も連続性が良く断面図全体にわたり追跡可能な反射面を抽出した。
*A層の速度は深度と共に漸増するが、平均的な速度は約 1.7 km/sであった。
・B層とC層の境界面
*坑井位置で深度 400〜500 m 付近の礫層と思われる反射面を追跡した。No.220〜420付近は、特に強い反射波が認められる。測線の南西部では 反射波の連続性が悪くなり、礫層の特徴を示していると思われる。
*B層の速度は約 1.9 km/s である。
・C層とD層の境界面
*坑井位置で深度 900〜1000 m 付近の礫層に対応すると思われる反射面を追跡した。
*C層の速度は浅部で約 2.0 km/s、基底付近で約 2.3 km/s である。
・D層とE層の境界面
*坑井位置で深度 1200〜1300 m 付近の礫層に対応すると思われる反射面を追跡した。
*上総層群と三浦層群の境界面付近に対応する。
*この面は、大きな不整合面と考えられており、この面を境に反射波の特徴が変化している。
*D層の速度は浅部で 2.4 km/s、基底付近で約 2.8 km/s である。
・E層とF層(先第三紀基盤岩)の境界面
*先第三紀基盤の上面として、大振幅の反射波が現れる面を追跡した。この面の下部には明瞭な反射波が認められない。
これは、先第三紀の基盤岩の速度は 4.5〜5.0 km/s であり、その上 部三浦層群とは大きな速度差がある事、基盤岩中には成層構造は考え にくく、また速度/密度差がそれほど大きくならない事等による。
*E層の速度は上部で 2.9 km/s であり、下部付近で 3.7 km/ sである。
(3)浅部(上総層群)の地質構造
・上記A、B、C、D層が上総層群に対応すると解釈した。
・上総層群は,測線上南西から北東に向かってゆるやかに傾斜し、ほぼ平行な堆積層を示している事が認められ、顕著な断層等の存在は見あたらない。
・速度解析結果から得られた地震波速度は、上総層群基底に向かって序々に増加しており、速度検層結果と良く一致している。
・礫層に対応すると思われる強振幅反射波は、以下にも認められ、
*B層中 No.560〜780、深度約 300 m 付近
*C層中 No.220〜460、深度約 800 m 付近
*D層中 No.400〜500、深度約 1300 m 付近
礫層の不均質な分布に対応していると考えられる。
・上記の中で、D層中の礫層の分布は特に異常であり、局所的なくぼみに礫が堆積する環境にあったと思われるが、三浦層群とその上部の上総層群との不整合面に対応する可能性も完全には否定できない。
(4)中深部(三浦層群)の地質構造
・E層が三浦層群に対応しており、上記上総層群の層構造と比較すると、平行な層構造がやや少なく、複雑な褶曲構造が認められる。
・三浦層群堆積時期の堆積環境が場所により変化していた事、堆積後にかなりの構造変化を受けた事等が想定される。
・三浦層群は、大局的には南西から北東に向かって序々に薄くなっている。
・複雑な構造形態にも拘らず、速度解析から得られた速度構造の側方変化は 少なく、上部で 2.9 km/s、下部付近では3.7 km/s となっている、防災科研の他の坑井「府中」、「岩槻」、「江東」等の三浦層群基底付近の速度 (3.5 km/s程度)に比べ若干早くなっている。
(5)基盤(先第三紀)の構造形態
・基盤の上面は深度 2700 m 〜 3400 m の範囲で、複雑に変化している。
・測線の南西部(No.520〜720)での基盤の上面は深度 2900〜3000 m でほぼ平坦であり、南西端(No.740〜780)でやや北東傾斜である。
・中央部(No.430〜520)では、基盤上面からの反射波がやや乱れるがNo.420付近では、深度 3300 m程度となっており、北東に約 300 m の落差がある。
・基盤上面の深度は、中央部から北東に向かい序々に浅くなり、北東端で約 2700 mである。
・基盤には、いくつかの小断層が確認できるが、三浦層群中で止まっており、 上総層群や地表までは及んでいない。
・No.430〜520 および No.140〜220付近で基盤上面からの反射波の乱れが認められる。
後者は、この付近の現場データの品質の問題と思われるが、前者は、屈折法で走時異常が出現している位置とほぼ対応している。
・基盤岩中には明確な反射波が確認できなかった。そのため基盤岩の区間速度を精度良く決定することは難しかった。
(6)総合評価(立川断層の延長の可能性についての本調査結果と既存資料の検討について)
・基盤岩中には小規模断層が認められ、それらは三浦層群の層構造には若干の影響を与えている事が認められる。しかしながら、上部の上総層群中に は基盤岩中に認められた断層の影響はおよんでいないと解釈できる。
・浅部で若干の反射波の乱れが認められ、何らかの異常(ANOMALY)と考えられる場所を以下に示す。
反射波の連続性が極端に悪い場所である。この付近は第三京浜の狭い側道での発振を行った所で、No.120 付近〜230 付近はバイブロサイス1台発振のため現場記録の品質は悪いが、地質的要因の可能性も否定できない。 No.480 付近で浅部構造の北東傾斜が急傾斜に変化している。三浦層群中にも北東急傾斜反射波が認められ、基盤上面の反射波の乱れが認められる場所に対応している。 反射波の連続性がやや悪くなり、500 m〜1000 m 付近で南西急傾斜反射波が認められる。 ・図5−5に既存の重力図(関東地域重力図(ブーゲー異常図)、地質調査 所 1985)、夢の島屈折法探査の受振点位置、本調査測点番号を1:50,000の 地形図に重ねた図を示す。 上記ANOMALYの位置、屈折法で走時異常(5.5 km/s 層(深度5〜6 km)の屈折波の走時が南西側で遅れる)が観測されている受振点位置も同時に示す。 ・重力コンターと反射法の結果は、大局的には一致している。 ・屈折法の南西側への走時遅れの理由としては、 (a) 5.5 km/s 層の南西落ちの段差構造の存在 (b) 5.5 km/s 層から地表までの平均速度の相違 (c) 5.5 km/s 層中の部分的低速度層の存在 (d) 5.5 km/s 層の速度が南西部で低速度となっている。 の可能性が考えられる。 (a)は、重力値の分布、反射法で確認できる先第三紀の構造と矛盾するこ とになり、また(b)については、本調査の速度解析結果は、地表から深度約 3000 m (先第三紀基盤)までの平均速度は約 2.7 km/s であり、側方変化も 殆ど無いことから考えにくい。 (c),(d)等についての検討が今後の課題であろう。