(2)地震の規模(M:マグニチュード)

北武断層が再活動した場合の地震の規模(M:マグニチュード)を推定する。

過去、地震によって地表に出現した断層(地表地震断層)の長さ(L)と地震の規模(M:マグニチュード)の関係について、過去約100年間の日本列島の内陸で発生した地震断層と地震観測又は測地データをもとに松田(1975)は下記のような関係式を提案した。

     Log L=0.6M−2.9......1式 L:地震断層の長さ(km)

                             M:地震の規模

    Log D=0.6M−4.0......2式 D:1回の活動による

                                 変位量(m)

以下に、断層の長さおよび変位量から求められる地震の規模を試算する。

断層の長さ(L)は、北武断層と北武断層西部および東京湾への延長(L=4km、注)をそれぞれ考慮したものとした。また、1回の活動による変位量はNo.1地点で確認できた横ずれ変位量0.6m以上を1回の断層活動と仮定して試算した。

                    断層の長さ(L km) 地震の規模(M)

北武断層 =8.5  = 8.5     6.4

北武断層+(北武断層西部+東京湾への延長)=8.5+(2.7+4.0)=15.2    6.8

 注)東京湾への延長する長さは、地質調査所(1995)東京湾とその周辺地域の地質

  (第2版)10万分の1地質図.特殊地質図20からスケールアップにより求めた長さ 

1回の活動による変位量(D)        地震の規模(M)

   No.1トレンチ 0.6m以上 6.3以上

以上のように、今回の結果から求められる地震の規模は、断層の長さからは、M=6.4〜6.8、変位量からは、断層西端部のNo.1(芦名野々池)地点では、M=6.3以上となる。ただし、東部域では具体的な調査結果はないが、変位地形の明瞭度からこれより大きい規模の地震の可能性が考えられる。

なお、1式、2式は、1891年以降、日本で発生した地震断層のデータや地震観測又は測地データをもとに、統計的に処理されたものである。特に、1式の係数はM=7のときL=20km、M=8のときL=80kmとして決定されたものである。

利用にあたってはバラツキの大きい値であることを考慮し、一応の「目安」として用いる必要がある。

また、試算と実際の例としては、兵庫県南部地震の際に地表に出現した地震断層の長さと余震や破壊面の分布から計算される震源断層の長さの試算例がある。地震規模は、M=7.2であり、地震断層の規模L=9kmの場合、1式から求めたM=6.4と合致していない。しかし、震源断層の長さは40Kmとされ、これから試算するとM=7.5となり実際のMの値に近い値となる。

北武断層で検討した断層の長さからはM=6.4〜6.8であるが、兵庫県南部地震の例からすると震源断層としての長さはこれ以上である可能性があり、実際に発生する地震のマグニチュードも計算したマグニチュード(M=6.4〜6.8)より大きいことが予想され、M=7程度を考慮しておく必要があろう。

今回把握された断層の規模・活動性に加えて、北武断層や北武断層帯が実際に発生させた地震発生モデルの解明から震源断層の規模を検討し、より実際に近い地震規模の検討が今後必要であろう。