断層は、西側法面最下段のW28、W29で確認された(図5−5−4−1、写真5−7)。
断層は、基盤岩の逗子層(H)および鐙摺層(I)を画し、古期崖錐性堆積物(G)を切り、完新世河成堆積物のC層を切っている。トレンチ掘削の過程で、W28付近に断層のセンスを示す証拠が現れた(図5−5−4−2、写真5−8)。これによると、C層の礫に断層による引きずりがみられ、右横ずれと判断した。横ずれの量は、図5−5−4−2から60cm以上と考えられる。 基盤岩の断層面に条線がみられ、その方向はN71゚Wで、傾斜は14゚Nであった。断層のセンスは条線からはわからなかったが、垂直ずれが小さく、条線の傾斜が低角であることから、相対的に北側隆起の横ずれが卓越する断層であると思われる。水平ずれの量は、トレンチ法面ではわからなかった。法面で計ったC層下限の見かけの落差は約20cmで、断層に沿って礫の長径方向がほぼ垂直になって並び、周辺の礫の配列も断層に向かってたわむような状態を示している。断層はC層下底から、3条に分岐してC層上位にのびている。C層上部では断層の位置はやや不明瞭になる。C層上部での礫の配列は5−5−1項でものべたように“ハの字状”になっており、“火炎構造”を示すB層と同様に地震時の液状化による変形と考えられる形状を示す。C層上部には、断層による明らかなずれは生じていない。断層が、C層の上位のB層まで達している確実な証拠は見当たらなかった。すなわち、断層はC層まで切るが、C層より上位の地層を切っていないと判断した。
図5−5−4−1 断層周辺スケッチ図(西側法面W28〜W31)
写真5−6 西側法面(W28)に見られる断層 (図5−5−4−1 断層周辺スケッチ図に対応)
図5−5−4−2 西側法面W28前面スケッチ詳細図
(2)東側法面
西側法面で確認された断層を底盤を通して、東側法面に追跡したところ、法面最下段E28でN67゚W、48゚Nの走向・傾斜で上盤側に逗子層が下盤側に鐙摺層が分布する断層を確認した(図5−5−4−3、写真5−9)。
トレンチ最下段では断層に沿って断層粘土(幅5mm〜7mm)が認められた。本断層は角礫混じり粘土状を呈する逗子層の破砕帯(幅50〜80cm)を伴い、断層面に観察された条線の方向はN47゚Wで傾斜は20゚Nであった。断層の性状・センスを示す証拠は見当たらなかったが、条線の傾斜が低角であることから、横ずれが卓越する断層であろうと思われる。この断層を東側法面に追跡したところ、河成堆積物のC層を構成する礫混りシルトの下面まで達していることが確認できた。しかし、トレンチ掘削による撹乱土が断層面直上まで及んでおり、断層がC層を切り、さらに上位の地層まで達しているかどうかは確認できなっかった。
図5−5−4−3 東側法面・E28〜E29にみられる北武断層
写真5−8 東側法面E28付近に見られる北武断層