A測線(C測線を含む)の時間断面では、箱根火山からの強反射面(群)が東傾斜で潜りこんでおり、この反射面の下にも東傾斜優位の反射イベントが認められる。国府津・松田断層より東側(大磯丘陵側)でも、不明瞭であるが2.5秒以深で反射イベントが認められる。この反射面は、屈折法による解析から4.3km/sまたはそれ以上の地震波速度相当層と解釈される。これより上位は東傾斜が卓越しているが、酒匂川付近ではやや規模の大きな背斜状の形状が確認できる。また、小田原市飯田岡より西側には複数の反射不連続(東傾斜)が確認できる。大磯丘陵の基盤は、屈折法による結果(4.3km/s)から、0.6〜0.7秒程度の反射面に対応すると考えられるが、足柄平野の基盤との関係については、国府津・松田断層を跨いで反射面の連続性は確認されず、同じ速度でも地質的に同一層であるとは限らない。一方、上位の反射面は足柄平野と同様、複数の褶曲が確認される。
国府津・松田断層の直下では、0.1秒〜0.3秒にかけて連続性の強い反射面が存在する。これらは若干東傾斜であり、層厚変化から累積的に東に傾動していると推定される。国府津・松田断層と位置的に対応し、断層運動に伴う反射面の不連続が複数確認できるが、これらのうち比較的規模の大きなものは、都市圏活断層図(国土地理院、1996)に図示された2本の断層線の延長上(CDP510〜550、小田原市曽我地区)とほぼ一致する。このうちCDP530付近の不連続は、反射面が一部錯綜しており、深部への延長はやや困難であるが、西側の地層傾斜(西傾斜)と東側の地層傾斜(東傾斜)の違いから、3秒程度までリストリックな断層として大磯丘陵側に追跡が可能である。活断層が推定されている千代台地西縁(CDP640〜650)では、浅部反射面は、水平、または、やや東に傾動しているものの、大規模な撓曲、断裂として確認できない。一方、国府津・松田断層から大磯丘陵にかけての反射波は低周波で弱いが、水平または東傾斜が優勢である。なお、反射波の卓越周期は、浅部でも高々40Hzであるため、分解能に関して地質層序との対比には注意が必要である。
以上のように、足柄平野直下において箱根火山から東へ傾斜する強反射面(群)が認められ、これらの反射面は相模トラフ直下にも存在する東傾斜の反射面に関連付けられ、フィリピン海プレートの沈み込みやこれに伴う付加メカニズムに関係する構造として議論できる。また、国府津・松田断層に伴う反射面の不連続(断層)が小田原市曽我地区に複数認められ、主要な断層が地下深部まで追跡できる。今後、地質構造の発達過程を考察し、活断層の活動度評価に有用されることが期待される。