北武断層に沿っては、谷や尾根の横ずれなど明瞭な断層地形が認められている（安藤，１９７２；太田ほか，１９８２;太田・山下，１９９２など）。また、７箇所でトレンチ調査・ボーリング調査が実施され、最新活動時期と複数回の活動が報告されている（太田，１９９９； 杉村ほか，１９９９など）。北武断層の断層地形は東部で明瞭であるが、松越川中流より西方では不明瞭となる。松越川で実施されたトレンチでは３，０００年以降に活動がなく、東部の区間で報告されている最新活動時（１，０００〜１，５００年前）には活動していない（神奈川県，１９９５）。神奈川県（１９９６）は、この区間（松越川〜横須賀市久留和）を北武断層西部と呼んでいる。渡辺ほか（１９９６）でも、活断層として示しているのは北武断層西部を除く横須賀市野比〜松越川の区間である。この区間の長さは８．５ｋｍである。ここでは北武断層は横須賀市野比から松越川まで連続すると考える。その長さは、後述する海域の４ｋｍを含めて１２．５ｋｍである。

北武断層の東端は野比海岸で海中に入るが、空中写真から波食台に北武断層の延長を示すと考えられるリニアメントが確認できる。神奈川県（１９９６）は、海上保安庁水路部のデータの再解析および地質調査所（１９９５）「東京湾とその周辺地域の地質」の資料に基づき、北武断層の東方海域の断層長を４ｋｍとしている。

・平均変位速度、最新活動時期、活動間隔

北武断層は右横ずれを主体とする。太田ほか（１９８２）は、谷の右ずれ量から平均変位速度として２〜３（最大４）ｍ／１０００ｙを算出している。上下変位量としては、沖積面の高度差から０．４ｍ／１０００ｙ、小原台面の高度差から０．１〜０．３ｍ／１０００ｙを求めている。松島（１９９９）は、完新世海成層（約６，０００年前）の上限高度の不連続として南上り７ｍを報告している。これから求められる上下方向の平均変位速度は、１．２ｍ／１０００ｙである。一方、地質分布からみた三浦層群（中新世〜鮮新世）の変位は南上りで、その変位量は５０ｍ以上となる（三梨・矢崎，１９６８）。太田ほか（１９８２）などによれば、三浦半島断層群の変位様式は第四紀中期頃から現在の右ずれ主体になった。ここでは、北武断層の活動度を右横ずれ主体のＡ〜Ｂ級とする。

北武断層では多くのトレンチ調査およびボーリング調査が行われ、最新活動時期は１，０００〜１，５００年前であることが判明している。最新活動の一つ前の活動については、杉村ほか（１９９９）が「ようろしトレンチ」において、１，５７０〜１２，５１０ｙ．Ｂ．Ｐ．（可能性が高い時期としては３，０７０〜６，２５０ｙ．Ｂ．Ｐ．）であるとしている。今年度の調査では、杉村ほか（１９９９）のスケッチ・年代値の再検討を行い、最新活動の一つ前の活動を約３０００〜約６２００年前と判断した。以上の検討結果から、北武断層の活動間隔は１，５００年以上、５，２００年以下であると考える。