三浦半島北断層群の個々の断層についてみると、最新活動時期は一致しておらず、最も新しい時期に活動した断層は北武断層であり、その最新活動時期は1,000〜1,500年前である(図6−1)。また、平均活動間隔も各断層によって異なるが、武山断層では最新活動からおよそ2,000年が経過し、北武断層では1,000〜1,500年が経過しており、最新活動時期以降、平均活動間隔に匹敵する時間がすでに経過している可能性がある。なお、これらの断層群が地下において収斂しているとすれば、平均1,000年〜1,600年程度の間隔で活動している可能性がある。三浦半島北断層群の活動履歴は十分に解明されているとは言い難いが、各断層の最新活動時期の年代値をみると、最短の場合数100年程度の間隔で活動している可能性もある。すなわち、約1,400年前から約2,200年前の約800年間に、衣笠、北武、武山断層が相次いで活動したと考えることもできる(図6−2)。
いずれにしても、比較的近い将来において三浦半島北断層群を起震断層とする直下型地震が発生する危険性があることになる。ただし、ここでいう「近い将来」とは、現在を含む数100年先ということである。これだけの年代幅があるのは、地震発生時期を直接示す地層から年代測定資料を採取できるとは限らないこと、14C年代測定には100年程度の誤差がともなわれること、年代測定値の上下逆転があることなどによる。
三浦半島南断層群に関しては、十分な検討資料はない。断層長から求められる地震規模はM6.0に達しないが、南下浦断層の単位変位量を2.2mとすると、三浦半島南断層群は雁行する一連の断層であり、M7程度の地震を引き起こす可能性がある。しかし、いずれも活動度は低く、比較的短い間隔で地震を繰り返し発生してきたとは思えない。
一方、三浦半島断層群が相模トラフのプレート境界の活動にともなって直接あるいは副次的に活動するという考え方もできる。三浦半島の地下には、相模トラフから北東へ傾き下るメガスラストがある(図6−3)。これは、相模トラフで北へ向かって沈み込むフィリピン海プレートと、北米プレート(本州)との境界をなすものである。1923年の関東地震(M7.9)を起こした断層面は、相模トラフから30〜45°で北東へ傾斜し、横浜付近の地下に達すると考えられている(Kanamori,1971; Ando,1974; Matsu’ura et al.,1980など)。
1923年の関東地震にともなって、三浦半島や房総半島南部は隆起しており、同じような地震隆起は数百年程度の間隔(最短で200年程度)で過去に繰り返し起こってきたことが、完新世海成段丘などの調査から推定されている(熊木,1999;宍倉,1999など)。関東地震前後の三浦半島における水準点測量結果を解析したScholz and Kato(1978)をみると、三浦半島の南部ほど隆起する傾向にあるが、個々の断層群を境に差別的に隆起しているようにもみえる(図6−4のB,C)。実際に、1923年の関東地震では武山断層の東端付近に長さ1kmの下浦地震断層が現れた。杉村(1973)は、下浦地震断層を相模湾断層から枝分かれしたものと考えている。付加体のような構造をなす三浦半島の地質構造から見ると、三浦半島断層群は相模トラフからの枝分かれする断層のようにもみえある。
このように、三浦半島は数百年程度の間隔で発生する相模トラフの活動に伴い隆起し、三浦半島断層群の一部がプレート境界と連動して活動した可能性がある。三浦半島断層群が相模湾のプレート境界に収斂している場合には、三浦半島断層群の一部がプレート境界と一連に活動して、M8クラスの地震を発生する可能性を考える必要がある。この場合、1923年の関東地震からまだ80年程度しか経過していないので、当面地震が発生する可能性は低いと考えることもできる。しかし、前述したように,活断層調査における「近い将来」とは現在を含む数100年先であるのに対し、プレート境界で発生する地震は数百年程度の間隔で発生しているので、これも近い将来に発生する地震となる。
以上のように、三浦半島北断層群が独自に地震を発生させるとしても、相模トラフのプレート境界に収斂するとしても、「次の直下型地震」は近い将来に起こる可能性がある。1923年の関東地震による横須賀市の震度は6であった。三浦半島断層群が単独で活動するとしても、直下型地震となるために、震度は6強程度になると考えられる。今後も、三浦半島は数百年あるいは千数百年程度の間隔で大きな地震動を被ると考えられる。