今年度は引橋断層の横ずれ河谷について再検討を行った。
松田(1966)によると、谷の屈曲量dと断層から上流の谷の長さLとの間に比例関係があることがわかっている(次式)。
d=a×L (aは谷の屈曲率)
谷の屈曲率dが断層による横ずれ量Dと一致していると仮定し、
D=a×L
平均変位速度S(mm/y)は、
S=D/T=(L/T)×a (L/T は谷の長さの増加速度)
谷の長さの増加速度が一定とみなせる場合には、Sとaは比例している。日本中部のSとaが既知である断層から、
S=10a
という関係を松田(1966)は示した。
引橋断層について、上記の関係が成り立つと仮定し、米軍撮影の1/10,000空中写真を用いた写真判読及び1/2,500地形図から、9箇所の谷壁の右横ずれ量及び断層上流の谷の長さを読み取り、検討した。その結果、横ずれ変位の平均変位速度は0.7m/1000年となり、B級である(図2−6)。
また、引橋断層周辺の段丘面の高度差を用いて上下方向の最近の変位について検討するため、空中写真判読を行なった。断層の両側には高位から小原台面、三崎h面、三崎l面が順次分布している(図2−7)。従来の研究では当地域の海成段丘面は小原台面、三崎面の2段に区分されていたが、今回の空中写真判読によると三崎面は比高8〜12mの段丘崖で上下2面に細分され、本報告では下位の面を三崎l面と仮称する。東野頓坊〜から池に至る断面A−A'においては小原台面に約7m南側が高い高度不連続が認められ、小原台面の推定年代約10万年から縦ずれ変位の平均変位速度は0.07m/1000年となる(図2−8)。
活動間隔、単位変位量に関しては、今回の調査では明らかにできず、段丘面上でトレンチを行うなど、今後の調査に期待したい。