3−4−2 引橋断層の調査方針

引橋断層は,断層変位地形は明瞭であるが,活断層としての地質情報に乏しい。既存文献においても,引橋断層の活断層露頭の記載は,小玉ほか(1980)などに見られるが,南下浦断層に比べて非常に少ない。

引橋断層のトレンチ調査を行う際には,断層位置の特定が必要になる。前述のように,初声層を切る引橋断層は,南下浦断層のような地質境界断層と比べて位置の特定が難しい面がある。したがって,トレンチ調査に先行する断層位置の特定は,断層変位地形が明瞭な引橋断層東部を対象とすべきである。

引橋断層の調査に有効と考えられる調査内容と方針は,以下のとおりである。

(1) 既存ボーリングデータの収集

既存のボーリングデータを数多く収集し,平面的に断層位置を推定できる可能性がある。

(2) 地形地質踏査

露頭のデータは限られているが,割れ目解析などで断層位置が推定できる可能性がある。また,火山灰を手がかりにして変位量を追跡できる可能性がある。

(3) ボーリング調査

ボーリング調査は,斜めボーリングで断層を貫く方法やボーリングを高密度で行う方法などを用い,確実に断層を捉えるよう工夫して実施することが必要である。

(4) 物理探査

分解能を高め断層破砕帯を捉えることが必要であり,γ線探査や浅層反射法などの探査手法が有効と考えられる。

南下浦断層の最新活動時期は,約20,000〜22,000yrsBPであり,完新世の活動は示していない。したがって,引橋断層の最新活動時期も比較的古い可能性がある。完新世の活動履歴を明らかにするには谷底平坦地でのトレンチ調査が必要であるが,数万年単位の活動履歴を捉えるには,火山灰の保存状態が良い台地部でのトレンチ調査も有効である。