(3)単位変位量

菊名地区のトレンチ調査では,断層の単位変位量を直接明らかにすることはできなかった。本項では,各種の調査結果を考察し,単位変位量の推定を行う。

(1) E2層の分布を用いた単位変位量の推定

E2層が経験した断層活動が1回と仮定した場合,E2層は地すべりブロックであり,その分布は,地すべりが生じた時期の谷幅の中に限定される。このため,この地すべりブロックの分布範囲を上盤および下盤で限定することができれば,横ずれ量をある程度明らかにすることが可能である。

E2層は地すべりブロックであり,初声層および宮田層が形成する谷壁を越えて分布することはない。このことから,上盤側のE2層が侵食によって削除されたとしても,現在埋没している初声層の谷壁位置が推定できれば,変位量はその谷壁と下盤側谷壁(E2層の分布限界)の差をもって,変位量の最大値として評価できる。

トレンチの西側のり面で実施した断層追跡溝および水平ボーリングから,標高19m付近における下盤側のE2層の西側分布限界と上盤側の埋没した初声層の谷壁位置を推定した。その結果,断層を境してのE2層の分布は,水平(断層走向)方向の食い違いが2m程度あることが明らかとなった。この食い違い量は,上下変位がなく,活動回数が1回と仮定した場合,単位変位量の近似値として扱える。

(2) F層の分布を用いた単位変位量の推定

トレンチのり面,断層追跡溝および水平ボーリングなどの結果を考慮して作成した地質断面図を図2−37に示す。F層の分布形態に着目すると,F層基底の高さは,東側および西側のり面で約1mの高度差がある。

また,断層の走向方向における両層の分布は,初声層と宮田層の谷壁位置のずれ相当の食い違いがあり,上盤側のF層は下盤側のF層より少なくとも2m西側に分布する。上盤側におけるF層の西側分布限界が明らかになっていないため,両層の食い違い量は明確にできないが,少なくとも2mであり,最大量については言及できない。

鉛直方向の約1mおよび水平方向の最低2mのずれは,最新活動で生じた地層の変位量とすることができる。

したがって,単位変位量は以下のように試算できる。下記の数値は,断層が垂直の場合であるが,南下浦断層は傾斜70°以上の高角度であるため,断層の傾斜を考慮しても,変位量はほとんど変らない。

 鉛直変位量:約1.0m

 水平変位量:最低約2m

 単位変位量:最低約2.2m

上記のように,単位変位量は,E2層の分布から最大約2m,F層の分布から最低2.2mの単位変位量が推定される。

E2層の分布から推定した単位変位量は,次に示すような不確定な要素がある。しかし,F層の分布から推定した単位変位量は,確認された地層を基にしているため,信頼性が高い。

・ E2層は,blBH−1で確認された標高19mにおける初声層谷壁の上部標高および谷壁位置の西側に分布する可能性がある。

・ 谷壁位置からE2層の有無を推定しているため,推定量は信頼性が劣る。

したがって,菊名トレンチにおける最新活動の単位変位量は,F層の分布から推定した値となり,最低約2.2mとする。