(2)最新活動時期

トレンチで確認された地質層序,各地層の分布と構造,断層による地層の変形および年代測定結果を解釈し,菊名トレンチにおける最新活動時期を考察した。確認できる最新活動時期は,以下のとおりである。

(1) トレンチの東側のり面

東側のり面で確認される南下浦断層の最新活動時期は,トレンチにおける層序区分のうち,E2層の堆積後でD3層の堆積以前である。トレンチの東側のり面における断層周辺の解釈図を図2−36に示す。

断層を直接覆うD3層は砂礫層であるため,年代値は得られていない。しかし,直上のD2層からは20,650±80yrsBP,24,650±90yrsBPの年代値が得られている。確実にせん断されているE2層の年代値は,34,060±650yrsBP,22,590±120yrsBPである。

最新活動は,確実に切れているE2層の最も新しい年代である22,590±70yrsBPと,切れていないD2層の20,650±80yrsBP間に生じたと考えられ,最新活動時期は約20,000〜22,000yrsBPに限定できる。

ここで問題になるのはE1層である。E1層では19,430±50yrsBP,21,400±70yrsBPの各年代値が得られている。a断層がE1層を切っているとすれば,最終活動時期は約20,000年前と特定される。しかし,E1層と断層の直接的な関係は,トレンチ内の観察から明らかにされたとは言い難い。

E1層は,E2層の表層風化で形成された腐植質層であり,その年代値はE2層とほぼ同じ年代である。したがって,a断層とE1層との関係は明確にできなかったが,年代値から見れば,E1層はE2層と同様にa断層にせん断されている可能性がある。E1層がせん断されていれば,最新活動時期は約20,000yrsBPに限定される。しかし,その年代値は前述した約20,000〜22,000yrsBPの年代に含まれる。

したがって,東側のり面で確認できる最新活動時期は,約20,000〜22,000yrsBPと評価できる。

ところで,せん断されていないD2層の最も古い年代値は24,650±90yrsBPであり,E1層およびE2層の年代値をわずかに逆転する。しかし,D2層は谷底堆積物であることから,堆積物の供給源は,東側の三崎面の斜面である。したがって,E層より古い年代を示す堆積物がD2層内に混在することは,D2層の堆積過程を考慮すれば矛盾しない。また,D2層におけるほかの年代値である20,650±80yrsBP,およびD1層の10,140±130yrsBPは,E層と同等の年代値,もしくは新しい年代値を示し,トレンチ層序と整合する。

(2) トレンチの西側のり面

西側のり面で確認される南下浦断層の最新活動時期は,トレンチにおける層序区分のうち,F1層,E2層の堆積後でB5層の堆積以前である。

断層を覆うB5層の年代値は,4,020±110yrsBPである。確実にせん断されているF1層の年代値は,34,970±270yrsBP,34,510±460yrsBP,34,220±450yrsBP,33,930±440yrsBP,27,300±180yrsBPが得られている。

同様にせん断されているE2層の年代は,東側のり面で得られたデータから34,060±650yrsBP,22,590±120yrsBPである。

西側のり面における最新活動は,E2層の新しい年代である22,590±120yrsBPと,B5層の年代値である4,020±110yrsBPとの間に生じたと判断できる。

したがって,西側のり面で確認できる最新活動時期は,約4,000〜22,000yrsBPである。ここではD層が存在しなかったため,年代幅をこれ以上限定することは出来ない。

(3) 菊名トレンチにおける最新活動時期

東側のり面で確認される最新活動時期は,約20,000〜22,000yrsBPである。一方,西側のり面で確認される最新活動時期は約4,000〜22,000yrsBPであり,東側のり面に比べて年代幅が広い。

トレンチの東西のり面で確認された断層は,基盤層,F層およびE2層を確実にせん断しており,東側のり面ではD層に,西側のり面ではB層に覆われている。東西のり面における最新活動時期は,E2層の年代である,22,000yrsBPより新しいという点で一致する。

トレンチの西側のり面ではD層およびC層が侵食され,断層を覆う地層はB層となる。したがって,西側のり面の最新活動時期は,欠如しているD層およびC層の年代を含むため,年代の幅が広くなっている。しかし,トレンチの東西両のり面で確認された断層活動は1回で,E2層をせん断するという点では共通しており,両壁面でみられた上位の活動が同一のものである可能性が大きい。そうすると,菊名トレンチにおける最新活動時期は,約20,000〜22,000yrsBPとなる。西側のり面の断層追跡溝でみられた状態から,その以前にも複数の活動があったと思われるが,時代を特定できない。