トレンチの東側のり面では,3条の断層が確認されるが,明瞭に地層をせん断するのはa断層のみである。a断層は初声層,F層,E2層を直線的にせん断し,D3層に覆われている。a断層から分岐するb断層およびc断層は,明瞭なせん断面を持たず,不規則に消失することから,単独の活動を示す断層ではないと判断される。
したがって,東側のり面において断層活動を確定できる断層はa断層の1条で,確認できる断層活動は1回である。
(2) トレンチの西側のり面
トレンチの西側のり面で行った断層追跡溝では,明瞭な3条の断層が確認された。
西側のり面で行った断層追跡溝の最終壁面では,幅30cm程度の断層破砕帯と3条の断層が確認されている。断層破砕帯は変形した宮田層のブロックが断層粘土中に混在する層相で,比較的広い変形帯を形成することから,複数回の断層運動を示唆している。また,最終壁面のα断層は,見掛け上F1層をせん断しておらず,あらかじめ撓み変形していたF2〜F4層をさらにせん断したようにも観察できるため,β断層およびγ断層と異なる断層活動を示す可能性がある。
しかし,掘削途中の断層追跡溝におけるα断層は,B5層直下まで延びF層全てをせん断している。その変形様式は最終状況のβ断層およびγ断層と同様である。また,図2−35に示すように,α断層,β断層およびγ断層は,断層追跡溝の内部で1条の断層に収斂し,それぞれの走向・傾斜は,ほぼ同じである。これらのことから,α断層は,β断層およびγ断層が活動した最新活動時期に生じた可能性も指摘される。
上記のようにα断層の活動時期が,β断層およびγ断層と異なる可能性はあるが,それを確定できるような地質情報を得ることができなかった。
したがって,破砕帯やα断層の性状から,複数回の断層活動を示している可能性はあるが,活動年代を確定できるのは最新活動だけであることから,西側のり面で確定できる断層活動は1回である。
東側のり面のa断層と西側の断層追跡溝で確認されたα,β,γ断層は,初声層,F層,E2層をせん断し,E2層より上位の地層に覆われている。また,それぞれの断層面の走向・傾斜は,ほぼ同じであることから,a断層とα,β,γ断層は,同一の断層もしくは同一の断層から派生した断層であると判断できる。したがって,菊名トレンチで確定できる断層活動は,最新活動の1回である。