(1) 水平ボーリング結果
@ blBH−1(掘進長L=4.00m)
孔口−
0.00〜0.05m:有機質粘土 B層基底の腐植質粘土層
0.05〜1.70m:砂質シルト F層に相当
1.70〜1.76m:砂礫 F層基底の砂礫層に相当
1.76〜4.00m:凝灰岩砂岩互層 初声層
孔奥1.76mで初声層が分布することが確認された。砂礫層と初声層の地層境界は,約20°の傾斜を示すことから,この深度での初声層は,緩傾斜の谷壁斜面を形成していると考えられる。
本孔の掘削では,F層(約35,000yrsBP)とB層(約4,000yrsBP)間の時間的間隙を埋める地層が分布していないこと,初声層の谷壁位置などを確認することができた。
A blBH−2(掘進長L=13.00m)
孔口−
0.00〜0.90m:シルト E2層
0.90〜2.57m:細礫混りシルト質細砂 D3層に相当
2.57〜7.40m:シルト質細砂 D2層に対比
7.40〜7.90m:砂礫 D2〜D3層に対比
7.90〜8.60m:シルト質細砂 D2〜D3層に対比
8.60〜10.35m:シルト質砂礫 D2〜D3層に対比
10.35〜11.65m:有機質シルト F3層
11.65〜12.05m:細砂 F3層
12.05〜13.00m:シルト混り細砂 宮田層
blBH−2孔で確認された地層は,上記のようにトレンチで確認できた層序に対比できる。厳密な対比は,各地層の年代値が必要となるが,層相から判定した各地層の対比理由は,以下のとおりである。
○ 0.00〜0.90mのシルトは,E2層(地すべり土塊)である。これは,東側のり面で行った断層追跡溝で確認された地層境界の延長が0.90m付近に位置する。
○ 0.90〜2.57mの細礫混りシルト質細砂は,D3層である。この地層も断層追跡溝で確認された地層境界の延長が2.57mに位置すると判断できる。
○ 2.57〜7.40mのシルト質細砂は暗灰色の還元色を示す。トレンチ内で還元色を示した地層は,E層およびF層であり,D層は褐色の酸化色を示す。しかし,ボーリングコアの層相は,上位層から漸移的に色調が変化し,幅10mm前後の有機質粘土層が上位層から連続して挟在され,上位層の層相と酷似する。また,境界付近に不整合面は確認できなかったため,本層はD3層に整合するD2層であると判断した。
○ 7.40〜7.90mの砂礫は,黄褐色を示しパミス粒を含む。褐色の砂礫層は,トレンチで確認された層序の中ではD3層およびD2層だけである。
○ 7.90〜8.60mのシルト質細砂は,還元色を示し黒色有機質土と互層をなす。黒色の有機質土は,トレンチのり面ではB層で確認されているが,全体の層序を考えればB層とはならない。本層の上位および下位ともにD2〜D3層に対比できることから,本層の有機質部はD層の一つの層相と評価し,本層はD2〜D3層と判断した。
○ 8.60〜10.35mのシルト質砂礫は,黄褐色を示しパミス粒を含む。褐色の砂礫層は,トレンチで確認された層序の中ではD3層およびD2層だけである。
○ 10.35〜11.65mの有機質シルトは,シルト質砂礫の下位層である。D2〜D3層の下位にあり,有機質な地層はF層である。
○ 11.65〜12.05mの細砂は,有機質シルト層と一連の堆積物であると考えられる。主に宮田層の砕屑物で,比較的均質な細砂からなり,トレンチの層序では宮田層直上のF3層に対比できる可能性がある。
○ 12.05〜13.00mは宮田層である。均質なシルト混り細砂からなり,塊状に分布する。コアで見られた35°の不整合面は,この位置での宮田層が形成する谷壁の傾斜を表している。
blBH−2孔の掘削により,トレンチ東側における宮田層の谷壁位置と宮田層の谷を埋める堆積物は主にD層であることが明らかになった。
(2) 水平ボーリング結果の解釈
水平ボーリングの結果を考察して作成した南下浦断層の上盤および下盤における推定地質断面を図2−34に示す。
地質断面図の層序区分は,トレンチの層序区分にしたがった。地層の分布形態を分かりやすくするため,細区分した層序は用いず,A層〜F層,宮田層および初声層で区分した。
@ 断層上盤側の推定地質断面について
初声層の西側における谷壁状況は,blBH−1孔の調査結果を反映した。
東西両側のトレンチのり面における初声層出現標高は同じレベルであり,上盤側での谷の中心線はほぼトレンチの中心と捉えることができる。したがって,初声層の東側谷壁は,トレンチ底盤の中心から西側と同様の形状を示すと考えられるため,断面図上はトレンチ中心線を基準に,ほぼ対象な形状で示した。
断層上盤側の地質断面から初声層の谷壁形状は,谷底低地の地形断面と調和的であることがわかる。
A 断層下盤側の推定地質断面について
MBH−2孔の孔奥で認められた有機質粘土および細砂は,地質断面図上F層として表した。地質断面図から分かる地形・地質情報は,次のとおりである。
○ 宮田層の谷壁傾斜
宮田層の谷壁形状は,東側と西側で異なっている。西側の谷壁形状は50°前後の急傾斜を示すが,東側の谷壁の傾斜は35°前後である。
西側における宮田層の谷壁傾斜は,トレンチ東側のり面および東側のり面の断層追跡溝で確認された。この地点での宮田層の分布は,断層方向の平面的な離隔約1.5mに対し,比高で約1.5mの高度差が認められた。また,東側のり面の断層追跡溝における宮田層の壁面は,70°前後の急傾斜を示した。
東側における宮田層の谷壁傾斜は,blBH−2孔のボーリングコアで見られた不整合面の傾斜角の35°である。
○ 宮田層が形成する谷壁と地形断面
宮田層が形成する断層下盤側の谷形状は,現況の地形断面とは不調和である。つまり,宮田層を侵食して形成された谷中心は,地形断面における谷の中心から東側に偏った状態になっている。
○ 地すべり土塊の供給源
菊名地区のトレンチで確認された層序のうち,E2層およびB4層は地すべり土塊である。E2層およびB4層の層相は,比較的均質で撹乱されていないことから,近傍の斜面から移動してきたと考えられる。断面図上におけるE2層およびB4層の分布形態は,東側斜面をすべり落ち,基盤層の谷壁に衝突し停止したように見える。トレンチのり面で観察されたE2層とF1層間のせん断面は,明らかに西傾斜している。また,南側のり面におけるB4層の分布形態は,東から西にかけて層厚を増し,B4およびB5層の下面は,30°〜40°の西傾斜となっている。
したがって,地すべり土塊の供給源は,トレンチの東側斜面もしくは東側斜面の上流であり,斜面を形成する初声層が供給源と考えられる。
(3) ずれ量の推定
走向方向のずれ量は,水平ボーリングの結果から,次のように推定することができる。
西側のり面で実施したblBH−1孔の調査結果から,初声層は孔奥1.76mで出現した。したがって,初声層の谷壁は,断層追跡溝で確認した宮田層の谷壁と約2mのずれがあり,初声層谷壁がより西側に位置する。
ただし,宮田層の谷壁傾斜は60°以上であるのに対し,水平ボーリングで確認された初声層の谷壁傾斜は約20°である。このような谷壁の傾斜の違いを同列で対比することの問題が残る。つまり,宮田層と同様の40°〜50°前後の傾斜を示す初声層の谷壁が西側にあるならば,断層を境したずれ量は,2mより大きくなる可能性がある
鉛直方向のずれ量については,断層の変位を測定できる同一の地層,もしくは変位を対比できる地層が分布しなかったため,ずれ量は不明である。しかし,トレンチの西側のり面の観察では,下盤側のF2層およびF3層が約1m上盤側に引きずり上げられた構造が確認されている。
図2−34 菊名トレンチにおける断層上盤および下盤の地質断面(縮尺1:200)