トレンチ東側のり面における断層性状を図2−27に示す。
東側のり面で確認された断層は,トレンチ最底部で初声層とF3層を境する1条であるが,上位のF2層あるいはF1層に至り,断層は3条に分岐する。3条に分岐する断層面を北側からa断層,b断層,c断層と仮称した。
a断層は基盤岩中の断層面から連続し,走向・傾斜を変化させずに,F3〜F4層とE2層の境界を形成し,E2層の上部まで達している。D3層下位のE2層は,風化によって変色しているが,断層面は確認できる。a断層を覆うD3層では断層は認められない。したがって,この断層面はE2層,F3〜F4層を切ってD3層に覆われる。
b断層は下盤側のF1層−F2層の境界付近で分岐をはじめ,不明瞭であるがE2層中まで追跡することができる。しかし,b断層はE2層中で断層面が不明瞭となる。
c断層は,F2層の最上部付近から分岐をはじめF1層に到達する。F1層をせん断したc断層は,F1層上位のE2層に覆われ,それより上部には達していない。E2層は地すべり土塊であり,E2層とF1層の間には明瞭なすべり面が観察できる。c断層は,すべり面より上部で確認できないため,すべり面に切られていると判断される。
以上のことから,トレンチ東側のり面において確認できる断層活動は,E2層とD3層の間で生じたa断層の1回である。ただし,c断層がE2層に覆われている場合は,a断層より古い年代に活動したことになり,a断層と異なる活動を示す可能性がある。
図2−27 トレンチ東側のり面における断層性状
(2) 東側のり面の断層追跡溝における断層性状
c断層を追跡するために,東側のり面の断層追跡溝を掘削した。
断層追跡溝では,F1層中に分岐したc断層の走向は,初声層中で観察された断層面の走向に対して大きく斜交するようになり,変形は識別できない。また,c断層は,上位のE2層基底まで達せずに,不明瞭となる。
トレンチのり面で不明瞭な断層であったb断層は,断層追跡溝においても同様であり,断層による地層の変位は不明である。
a断層は,E2層上部まで連続しD3層の地層境界に並走するが,その上部では追跡が困難となり,D3層とE2層の地層境界に見掛け上収斂する。
断層追跡溝の調査結果から,c断層は,走向が大きく変化し明瞭な断層面を伴わず,E2層基底まで達していないことから,単独で活動した断層ではなく,a断層の活動が生じた際に,派生した小断層と判断される。
したがって,東側のり面および断層追跡溝の観察結果から,活動が確認できる断層は,a断層のみである。その断層活動時期はE2層とD3層の間であり,この層準において少なくとも1回の活動があったことを示している。
断層追跡溝の位置を図2−28に,東側のり面の断層追跡溝の観察結果を,図2−29に示す。
図2−28 断層追跡溝およびトレンチ内の水平ボーリング位置 縮尺:1/200
図2−29 東側のり面における断層追跡溝の観察結果(スケッチの縮尺:1/20)