(2)引橋断層−金田地区−

電気探査は,HE−1測線(L=61m),HE−2測線(L=54m)で二次元比抵抗探査を,HT−12測線およびHT−14測線で比抵抗トモグラフィを実施した。金田地区における測線位置は図2−12のとおりであり,各測線の結果と解釈を以下に示す。

(1) HE−1測線(L=61m,電極間隔:1m,ダイポール・ダイポール法)

本測線は,地盤の比抵抗分布から断層の位置や性状を捉えることを目的にしてボーリング調査に先行して実施した。電極間隔は分解能を高めるため1mとし,電極配置は垂直構造を捉えやすいダイポール・ダイポール法とした。

@ HE−1測線の結果

解析断面の比抵抗分布は水平構造を示し,以下のように大きく3層に分帯することができる。HE−1測線の二次元比抵抗断面を図2−16に示す。

* 地表からGL−4m付近までの30〜60Ω−mを示す範囲

30〜60Ω−mの比抵抗値を示す範囲は,測線全体の最上部に連続性良く認められる。相対的に比抵抗値が高い60Ω−m以上を示す目玉状のゾーンは,不飽和状態の不均質な盛土状況を示している。

* GL−5〜12m付近の10〜30Ω−mを示す範囲

10〜30Ω−mの比抵抗値は,HE−1測線の解析断面で最も小さい値である。分布形態は,概ね水平であるが,測線終点側では緩やかに傾斜し上部に達する。この範囲は,飽和した粘土で構成される。

* GL−12m以深の40〜70Ω−mを示す範囲

比抵抗値は,深度が増すほど大きくなる傾向が認められる。分布形態は上部でほぼ水平を示すが,標高が低くなるほど測線起点側に傾斜するような構造を示す。

A HE−1測線の解釈

比抵抗分布は,水平な3層構造を示している。上部は不飽和状態の粘土層,中部は飽和した粘土層,下部は基盤である初声層を表している。

初声層内の比抵抗分布から,断層を示唆するような比抵抗値の変化や異常な比抵抗分布は,不明瞭である。

図2−16 HE−1測線の二次元比抵抗断面 縮尺1:200

(2) HE−2測線(L=54m,電極間隔:1m,ダイポール・ダイポール法)

本測線は,HE−1測線と同様の目的でボーリング調査に先行して実施した。電極間隔は分解能を高めるため1mとし,電極配置は垂直構造を捉えやすいダイポール・ダイポール法とした。

@ HE−2測線の結果

解析断面における比抵抗分布は水平構造を示し,以下のように大きく3層に分帯することができる。

* GL−4m付近までの30〜60Ω−mを示す範囲

30〜60Ω−mの比抵抗値を示す範囲は,測線全体の最上部に連続性良く認められる。相対的に比抵抗値が高い60Ω−m以上を示す目玉状のゾーンは,不飽和状態で不均質な盛土状況を表している。

* GL−5〜12m付近の10〜30Ω−mを示す範囲

10〜30Ω−mの比抵抗値は,HE−2測線の解析断面で最も小さい値である。分布形態は概ね水平である。この範囲は飽和した粘土で構成される。

* GL−12m以深の20〜60Ω−mを示す範囲

比抵抗値は,深度が増すほど大きくなる傾向が認められる。分布形態は上部でほぼ水平を示すが,標高が低くなるほど測線起点側に傾斜するような構造を示す。

A HE−2測線の解釈

HE−2測線の二次元比抵抗断面を図2−17に示す。

HE−2側線は,地表部の比抵抗値がE−1側線に比べて高い値を示しているが,E−1測線とほぼ同じような傾向を示している。

有機質粘土層と初声層との境界は,E−1測線と同じく下側に湾曲しているが,初声層上部の比抵抗値がE−1側線に比べて高い値を示している。

本測線の解析断面においても,断層を示唆するような比抵抗値の変化や異常な比抵抗分布は,不明瞭である。

図2−17 HE−2測線の二次元比抵抗断面 縮尺1:200

(3) HT−12測線(電極数:33極,電極間隔:1m,電極配置:2極法)

HT−12測線は,bgB−1とbgB−2のボーリング孔間で実施した比抵抗トモグラフィである。本測線の目的は,HE−1測線,HE−2測線およびボーリング調査結果において引橋断層が識別困難であったため,より分解能の高い比抵抗トモグラフィを用いて断層を捉えることである。

探査範囲は,東側丘陵斜面と谷底低地の地形境界付近に引橋断層が通過すると推定し,bgB−1およびbgB−2のボーリング孔間で行った。

測線は,1mの電極間隔でbgB−2に孔中電極を13極,地表電極を9極,bgB−1に孔中電極を11極設置し,電極配置は2極法とした。

HT−12測線の二次元比抵抗断面を図2−18に示す。

@ HT−12測線の結果

比抵抗分布を概観すると,相対的に高い比抵抗部と低い比抵抗部が局部的に分布し,層状構造が不明瞭である。ただし,盛土,谷底堆積物および初声層の比抵抗値は,明らかに異なっている。

盛土の比抵抗値はバラツキが見られ,高比抵抗部や低比抵抗部が混在する。

有機質粘土は,10〜20Ω−mの低比抵抗値を示し,飽和した粘土層にあたる。

初声層は,30〜50Ω−mの比抵抗値を示す。ただし,bgB−1孔の近傍には80Ω−mを超える高比抵抗部が分布する。

A HT−12測線の解釈

盛土層では,比抵抗値にバラツキが見られる。この理由として不均一な地盤性状と間隙率や飽和度の差異が影響していると考えられる。

GL−2m付近に分布する50〜60Ω−mの高比抵抗部は,水抜き用に設置した埋設管(塩ビ管)の影響であると考えられる。

有機質粘土は低比抵抗を示し,下位の初声層は相対的に高比抵抗を示している。両者の地層境界は,不明瞭ながら識別することができる。

HT−12測線の結果からも,断層を示唆するような比抵抗分布は識別できなかった。

図U−18 HT−12測線(トモグラフィ)の二次元比抵抗断面 縮尺1:200

(4) HT−14測線(電極数:47極,電極間隔:1m,電極配置:2極法)

HT−14測線は,bgB−1とbgB−4のボーリング孔間で実施した比抵抗トモグラフィである。測線は,1mの電極間隔でbgB−4に孔中電極を7極,地表電極を29極,bgB−1に孔中電極を11極設置し,電極配置は2極法とした。

HT−14測線の二次元比抵抗断面を図2−19に示す。

@ HT−14測線の結果

比抵抗値は,盛土,谷底堆積物および初声層で異なる。

谷底堆積物の基底砂礫層は,相対的に50Ω−m前後の高い比抵抗値を示している。

有機質粘土層は,10〜40Ω−mの低比抵抗であり,飽和した粘土層相当の値を示している。

盛土層の比抵抗値は,相対的に有機質粘土より高く30〜50Ω−mの値である。地下水面より上部では,50Ω−mより高い比抵抗部が見られる。

初声層は,30〜50Ω−mの比抵抗値を示す。ただし,bgB−1孔の近傍には80Ω−mを超える目玉状の高比抵抗部が認められる。

A HT−14測線の解釈

盛土の不飽和帯は,飽和帯に比べて高い比抵抗を示しており,その傾向は,孔周辺で顕著に表れている。盛土部の比抵抗分布は,測線中央部にゆるやかに傾斜するような形状が読み取れ,盛土の分布形態と調和的である。

有機質粘土層は,低い比抵抗を示しているが,孔中電極から離れるにしたがって比抵抗分布は不明瞭になり,地層境界の識別が困難になる。ただし,孔周辺では10Ω−m前後の低い比抵抗値を示している。

初声層は,測線終点側で谷壁形状が読み取れるが,測線起点側では不明瞭となっている。

解析断面は,孔周辺の比抵抗値を強く反映している傾向が見られるが,地層ごとの比抵抗値は反映している。しかし,断層を示唆するような比抵抗分布は,HT−14測線の解析結果からも識別できなかった。

図2−19 HT−14測線(トモグラフィ)の二次元比抵抗断面 縮尺1:200