南下浦断層および引橋断層は,東京湾と相模湾を分ける三浦半島の南端部を並走する。三浦半島南端の地形は,大部分が更新世後期に形成された海成段丘からなる。段丘は,上位から,引橋面,小原台面,三崎面と呼称されている。
引橋面は,引橋を中心とした標高80〜85mの侵食の進んだ引橋台地付近である。小原台面は,引橋面の周辺に広がる,標高75〜45mの侵食が進んだ台地である。三崎面は,小原台面の周辺に広がり,樹枝状の河谷に細かく侵食されるが,広い平坦面を保存している。
調査地周辺の河川は,引橋を分水界として放射状に流下するが,いずれも小規模であるため,沖積低地の発達は乏しい。
三浦海岸沿いには,標高15m以下の完新世海成段丘が見られる。
図2−1に三浦半島南部の地形面区分を示す。
図2−1 三浦半島南部の地形面区分(太田ほか:1982)
(2) 地質概要
三浦半島南端部の地質構成は,下位から三浦層群,相模層群,上部更新統および沖積層に大きく区分される。調査地周辺の層序表を表2−4に示す。
表2−4 調査地周辺の地質層序
各地層の記載を下記に示す。
@ 三浦層群:三崎層および初声層
調査地周辺に分布する三浦層群は,岩相により三崎層と初声層に分けられる。三崎層は三浦半島に分布する三浦層群の最下部にあたり,主に泥岩と凝灰質砂岩および凝灰岩の互層からなる。初声層は三崎層の上位に整合に重なり,より深い堆積環境を示す三崎層の浅海陸棚相に相当する。層相はスコリア質および軽石質の粗粒砂岩からなり,一部に斜交葉理が発達する。三崎層と上位の初声層の関係は,整合もしくは側方移行関係である。
A 相模層群:宮田層
宮田層は,南下浦断層を南限とする宮田台地に分布し,三浦層群を不整合に覆い,小原台砂礫層に不整合に覆われる。その層相は,礫層を挟む砂〜凝灰質砂からなる。
B 引橋段丘堆積物
本層は標高80m付近に分布する波食台堆積物である。
C 小原台砂礫層
本層は厚さ3.5m前後の粗粒な地層であり,約8万年前に降灰した御岳第一(On−Pm1)テフラを挟む下末吉ローム層最上部に覆われる。
D 三崎砂礫層
本層は,武山断層以南から半島南端まで広く分布する厚さ0.5〜1.5mの小礫混りの中砂からなる地層であり,高海面期の三崎海進によって形成された海成段丘堆積物である。本層上には箱根東京(Hk−TP)テフラ以上の武蔵野ローム層が分布する。
E 下末吉ローム層
調査地における下末吉ローム層は,厚さ約3mの粘土化が進んだ褐色ローム層であり,標高80〜85mに分布する。本層の下位には箱根吉沢テフラ(Hk−KmP)グループの軽石層,中位に箱根御岳(Hk−Pm1)テフラが認められる。
F 武蔵野ローム層
調査地付近では,三崎砂礫層および下末吉ローム層を不整合に覆い,立川ローム層に不整合に覆われて分布する。
本地域の武蔵野ローム層は,約6.6万年前に降灰した箱根小原台(Hk−OP)テフラを最下部付近に挟む。本層には,上述の箱根小原台テフラのほかに,箱根東京テフラ(Hk−TP),箱根三色旗テフラ(Hk−S),箱根中央火口丘テフラ(Hk−CC1)などの鍵層となるテフラが含まれている。
G 立川ローム層
調査地周辺の全ての台地において,下位の武蔵野ローム層を不整合に覆って分布する。直下の武蔵野ローム層には暗褐色のクラック帯が見られることから,本層との識別は比較的明瞭である。本層はほとんど粘土化しておらず,層厚は3mくらいである。
H 沖積層
本層は段丘面を開析する沖積谷底低地および一部の海岸沿いに分布し,未固結の粘土,砂,礫よりなる。
三浦半島の概略地質図を図2−2に,三浦半島南部の地質図を図2−3にそれぞれ示す。
図2−2 三浦半島の地質概略図(江藤ほか:1998)
図2−3 三浦半島南部の地質(小玉ほか:1980)
(引橋断層を加筆)
南下浦断層 菊名地区
引橋断層 金田地区
調査地域