(4)総合解析

ボーリング及びトレンチ調査によるなでしこ運動広場トレンチの地質断面図を、図43に示す。

トレンチの下部では腐植層・シルト層(D層)と砂礫層・シルト層(C層) とを境する急傾斜の境界面がみられた。その走向・傾斜は西側法面でN8W,66N、東側法面でN44W,52Nである。この現象について、境界面は断層であるという解釈と、チャネルであるという解釈がだされた。

断層であるということを示唆する現象としては、境界面付近の砂層(C3層)は両側の法面とも約60°の傾斜を示す、西側法面における境界面の北側の礫層(E1層)は20°で南傾斜している、境界面に剥離性が認められる、などである。

チャネルであるということを示唆する現象としては、境界面の北東側に位置する砂層(C3層) にはトラフ状の層理が発達している、境界面付近に破砕はみえない、トレンチ基部では境界面を挟んで良く似た礫層(D2層, 西側法面)、シルト層(D1層とC4層, 西側法面) が分布し連続するように見える、礫層(D2層) の礫に立ち上がりはみられない、C3層とE2層には未固結シルトからなるブロック状巨礫が存在しチャネルによる谷壁の侵食を示唆する、などである。

以上から、次のような解釈を行う。

・ 境界面に沿う急傾斜する砂層(C3層)は、断層による変形を示す可能性がある。

・ 約20°で傾斜する西側法面の礫層(E1層)は、深部の断層による変形の可能性もある。

・ しかし、トレンチでみられたC層とD層との境界面は、旧流路の谷壁の可能性が高い。

・ すでに隣接する浄水管理センターで報告されている活断層について、今回のトレンチ調査地点では確定できなかった。

なでしこ運動広場トレンチでは、活断層があらわれたか否かは判断できない。したがって、渋沢断層を現時点で評価する材料としては、平成9年度調査成果報告書による地形の累積的変形と、長瀬ほか(1996)が記載した浄水管理センター工事の際に現れた活断層の記載である。

渋沢断層の評価を次に示す。

a 渋沢断層は南上がりの活断層であり、30数万年前以降累積的に活動した。

b 長さ:6.5km (地形として認められる長さ)

c 断層活動:2,500年前以降に活動した可能性がある(浄水管理センター工事の際の報告による)。ただし今回のトレンチ調査では確認できなかった。

d 単位変位量:不明

e 平均変位速度:0.3m〜1.5m/1,000年でA〜B級の活動度である。

渋沢断層は平成9年度の調査によって、尾尻段丘(1〜2万年前)に15mの変位が報告されている。過去に起こった日本国内の内陸直下地震では、1回の変位量は数m、最大でも1891年濃尾地震の6.0mである(松田,1974)。したがって15mの変位を説明するためには2回以上の活動を想定しないと無理があり、その最新活動は尾尻段丘の年代から完新世になる可能性が高いと考えられる。また、渋沢断層は笠原ほか(1991)などの資料に基づいて国府津−松田断層との活動の関連性を指摘されており、この点からも渋沢断層が完新世に活動した可能性が考えられる。

地形的に確認された渋沢断層の長さは6.5kmと短いが、活動度はA〜B級であり、地形変位にも明瞭である。上記のことを考慮すれば、松田(1975)の断層長とマグニチュードとの関係式に、単純にあてはめることはできない。