ボーリング調査の結果、腐植層の不連続に基づいた断層推定位置はB−2とB−3の間に位置するため、この位置を掘削した。この断層推定位置は地下8〜9mにあったため、トレンチの規模は深さ9m、長さ47mとなった(図31、図32、図33)。
b なでしこ運動広場トレンチの層序
トレンチ内で見られる地層を粒径、色調、構造などに基づいて上位からA層、B層、C層、D層及びE層に区分した。各層はさらに細分された。層序関係及び地層の要約を図34に示した。各層準に関する記載を次に記す。また、各層の補正14C年代と暦年代をまとめたものを図35及び表9に示す。トレンチ写真及びスケッチは図36、図37に示す。14C年代測定を行なった地層については、補正14C年代値を併記した。
表9 14C年代測定結果一覧
A層:本層は、グランド造成時の盛土の直下(深度約−3〜−7m)に見られる地層である。トレンチ内では[D2.0〜3.0]付近より上位を占め、トレンチ内全体に見られる。層厚は約4mである。下位のB層及びC層とは不整合に接する。
本層は主に大礫主体の亜角〜亜円礫で構成され、マトリックスはシルトまたは砂で、全般的にルーズである。本層上半部(スケッチ範囲外)は下半部に比べて細粒で、中礫〜細礫が主体になってくる。最上部には宝永スコリアが挟まれる。本層上部からは、1,110±60y.B.P.(暦年代1sigma:950〜1,065y.B.P.,以下暦年代と略す。)の14C年代値が得られた。
B層:本層は、西側法面では[W2.5]以南、東側法面では[E6.2]以南に見られる。
本層は下位のC層、D層とは不整合関係である。西側法面では層厚は20〜70cmで、褐色または暗灰色のシルトでまれに細礫が混じる。下部は砂礫の含有率が多くなり、中礫も含まれる。[W6.4〜8.0]付近で下部層にはラミナが発達している。東側法面では層厚10〜100cmと大きく変化するが、下面はほぼ水平で上位に接するA層にけずり残された部分が厚くなっている。褐色または暗灰色の細砂と有機質礫まじりシルトとの互層であるが、それぞれの境界は不明瞭で漸移的である。
本層の年代は、2,810±40y.B.P.(暦年代:2,860〜2,950y.B.P.)である。
C1層:本層は、下位のC2層を削り込んで堆積している。
本層は暗灰色の細砂、有機質シルトあるいは礫層である。細砂、有機質シルト層は東側法面のみで観察される。[E7.1〜8.7]で、層厚は50cmほどである。暗灰色を呈し、上部がラミナの見られる細砂層で、下部が有機質礫まじりシルトである。礫層は西側法面ではW4.8以北、東側法面ではE7.2以北、また北側法面に見られ、層厚は20〜100cmである。中礫主体の亜円〜亜角礫層で、褐色を呈する。マトリックスはシルトである。上部は下部に比べて細粒で、砂、シルトが優勢である。
[E2.0〜2.8]ではラミナが発達している。また[E6.0〜7.2]には、長さ1m以上の材化石が挟まれる。
本層中の有機質シルトからは3,060±100y.B.P.(暦年代:3,140〜3,375y.B.P.)の14C年代が得られた。
C2層:本層は、西側法面では[W1.0〜5.8]、東側法面では[E0.6〜3.8]に見られる。北側法面には認められない。下位のC3層を削り込んでおり、層厚は20〜80cmである。
本層は、上部は褐色礫まじりシルトで塊状であるが、下部は砂質でラミナが発達する。西側法面では、下部層中に中礫が混じる。
C3層:本層は、西側法面では[W3.7〜8.4]、東側法面では[E2.6〜8.4]に見られる。北側法面には見られない。下位のC4層に累重し、層厚は100〜180cmである。
本層は全般的にラミナの良く発達したシルト質砂層であるが、部分的にシルト質礫層が挟まれる。堆積構造の単元の異なった3ないし4のユニットに細分される。下部には暗灰色の礫まじりシルトのブロック状巨礫が挟まれる。東側法面の[E6.0〜8.4]では有機質で木片も多く混入しており、炭化木片が葉理を作っている。 本層からは、2,500±70y.B.P.(暦年代:2,375〜2,415y.B.P.,2,450〜2,740y.B.P.)という年代が得られたが、その結果は上位の年代値と逆転している。
C4層:本層は、西側法面では[W6.2〜7.5]、東側法面では[E7.0〜8.1]に見られる。下位のD層との関係は不明であるが、D層を削り込むという見方がある。層厚は約50cmである。本層は暗灰色の砂質シルトで、細〜中礫が混在する。
D1層:本層は、西側法面では[W7.5]以南、東側法面では[E8.0]以南で見られ、層厚は2mほどである。下位のD2層には整合で重なる。
本層は暗灰色を呈する有機質シルトと細砂の互層である。シルト層には細礫が混在する。砂層は淘汰の良い中砂あるいは細砂で、ラミナなどの構造は見られず塊状である。これらの単層はほぼ水平に堆積している。中位の有機質シルト層にはスコリア層が挟まれる。
本層からは、3,020±70y.B.P.(暦年代:3,090〜3,340y.B.P.)のという14C年代が得られ、挟在するスコリアはS−15期スコリア群(2,500年前)あるいはS−5期スコリア群(4,000〜5,000年前)に対比される可能性がある。
D2層:本層は、西側法面でのみ認められ、[W7.1]以南に見られる。下位のE層との関係は不明であるが、不整合とする見方もある。層厚は20cm以上である。中礫主体の亜角礫層で、マトリックスはほとんどなく良くしまっている。
E1層:本層は、西側法面では[W4.6]以北、東側法面では[E6.2]以北、また北側法面に認められ、下位のE2層に累重する。層厚は30〜100cmである。
本層は全般的に中礫主体の亜角礫層で、マトリックスは褐色シルトである。褐色または暗灰色のシルトのブロックを含む。西側法面の[W4.0]付近より南側では成層構造をなす礫層へと漸移する。この部分では礫層は南に約20°傾いている。E2層:本層は、西側法面ではW5.0以北、東側法面では[E4.6]以北及び北側法面に見られる。層厚は80cm以上である。
本層は中礫サイズの亜角礫を主体とした砂礫層で、マトリックスはシルトである。礫まじりのシルトの大きなブロック状巨礫(長径100cm)を含み、そのブロックは中心は暗灰色であるが外側は褐色を呈する。北側法面ではラミナ構造の見られる砂層がレンズ状に挟在する。
本層からは、3,390±40y.B.P.(暦年代:3,585〜3,685y.B.P.)の年代値が得られた。
c なでしこ運動広場トレンチで観察される構造
トレンチの北端から南へ約8mの位置のトレンチ下部には、腐植層と砂礫層とが急傾斜な境界面で接していた(図38、図39、図40、図41)。この現象について次のような解釈(断層またはチャネル)ができる。
<断層であるということを示唆する項目>
・ トレンチの下部では、腐植層・シルト層(D層) と砂礫層・シルト層(C層) とを境する急傾斜の境界面がみられた。その走向・傾斜は西側法面でN8W,66N 、東側法面でN44W,52Nである。
・ 境界面には剥離性があり、境界面に沿う砂層(C3層) は約60°N の傾斜を示す。
・ 西側法面の礫層(E5層) は、南に約20°で傾斜している。
・ 隣接する浄水管理センターの工事の際に、2,580y.B.P.の腐植層を切断する断層が報告されている。
<チャネルであるということを示唆する項目>
・ トレンチ基部では境界面を挟んで良く似た礫層(D2層, 西側法面)、シルト層(D1層, 西側法面) が分布し、連続するように見える。また、礫層(D2層)の礫に立ち上がりがみられない。
・ 境界面付近に破砕がみえない。
・ 境界面の北東側に位置する砂層(C3層) には、トラフ状の層理が発達している。
・ 西側法面のC3層やE2層には、未固結シルトからなるブロック状巨礫が存在し、チャネルによる谷壁の侵食を示唆している。
<その他>
・ 東側法面の盛土直下、A層最上部には、噴砂、小断層、地割れの構造が認められた(図42)。これらの構造は、A層の上面から40cm下位の宝永スコリア層まで達している。これは1923年関東大地震の際に形成されたと思われる。
d なでしこ運動広場トレンチの解釈
以上から、次のような解釈を行った。
・ 境界面に沿う急傾斜する砂層(C3層) は、断層による変形を示す可能性がある。
・ 約20°で傾斜する西側法面の礫層(E1層) は、深部の断層による変形の可能性もある。
・ しかし、トレンチでみられたC層とD層との境界面は、旧流路の谷壁の可能性が高い。
・ すでに隣接する浄水管理センターで報告されている活断層について、今回のトレンチ調査地点では確定できなかった。