@浅層反射法探査によると、図3−1−5に示すように、4条の断層が推定され、東傾斜50°〜60°で東上がりの逆断層構造を示す。これは新第三紀層と相模層群を大きく変形させていることから、ずれを伴った断層が発達していると考えられる。ただし沖積層を切っているかどうかは不明である。
AB2−1,B2−2及びB2−3のボーリング調査は、この断層帯上部の沖積層の中で実施されており、標高−0.7〜+1.9mに完新世海成層の上面が確認された。
B北金目トレンチ壁面の観察から6層の液状化層(L1〜L6)が認められた。これらの液状化層のいずれかが伊勢原断層自体の活動に該当する可能性がある。
Cトレンチ内の主な地層について水準測量を行った結果、高度差は35pにすぎないが、下位のTF〜SC1間、及びSC1〜SC2間での傾斜が最も大きく、トレンチ西側では粘土層(E等)の層厚が厚くなっている。だが、本トレンチの範囲内だけでは断層の活動時期や変位量を認定することが困難である。
D図3−1−6の対比図において、トレンチの標準柱状は、ほぼ中央のN面、N16付近を表示した。ボーリングは、トレンチ西端より西へ15m離れたB2−1を用いた。したがって、両柱状の距離は31mである。同図からテフラ層の分布標高に明瞭な高度差がみられ、これを整理すると次の1)〜4)のとおりである。
1)下位のS−5〜S−7及び白色火山灰(TF)にみられる高度差は60〜81pである。このうち白色火山灰は泥炭層中に挟在し、その高度差は81cmである。
2)中位のS−9,S−10,S−11,S−13,S−14及びS−17(またはS−22)のテフラ層の高度差は33〜39pである。珪藻化石分析によると、この時期の堆積環境は、水生珪藻化石と陸生珪藻化石が混在する不安定な環境であったことが推定されており、この中位のテフラ層は、元々水平であったかどうか不明である。またS−7〜S−24−5間はボーリング孔(西側)とトレンチ(東側)の地層の層相はやや異なる。例えばS−12〜S−13間はボーリングで未分解の泥炭であるのに対し、トレンチでは黒色土壌である。S−14〜S−17(SC3)間はボーリングで腐植土であるのに対し、トレンチでは泥炭である。さらに、ボーリングではSC3相当のスコリアを欠き、侵食傾向を示す。
3)最上位のスコリア層S−24−5(SC4)は泥炭層中に挟在し、その高度差68pである。
4)上記テフラ層のうちで、明らかに安定水域下で堆積したと判断されるのは、泥炭層中に挟在する白色火山灰層(TF)とS−24−5スコリア層(SC4)であり、両者の高度差は81p、68pで平均75pである。これは真の変位量を表わすものと思われる。
E上述のDで検討した地層の高度差が断層帯の活動による変位と考えると、活動時期はS−24−5以降の1回で、1630±70yBP〜宝永テフラ堆積(1707AD)までの間である。この時の変位量は約75p東上がりである。なお、図3−1−5中の浅層反射法探査の解釈図に示されるように、伊勢原断層は、地表下浅部においては少なくとも4条の小断層に分岐している可能性があるため、トレンチとB2−1間の変位量75pは断層群全体の変位量を反映しているとは限らない。調査範囲内における白色火山灰(TF)の全体の高度差は、浅層反射法による推定断層位置の東端B2−10から調査範囲の西端B2−1間で94cmとなる。このことから伊勢原断層の1回の活動に伴う垂直変位量は約1.0mと考えられる。
ちなみに、トレンチとB2−1の間には、北金目の調査範囲内で最も落差の大きい断層(または撓曲)の存在が示唆されるが、断層変位に伴う落差(変形)はこれにとどまらず、幅広い“断層変形帯”が存在すると考えられる。ここでは変形帯の幅は約170mと推定される。
図3−1−5 地質断面図<北金目地区>
図3−1−6 北金目地区テフラ対比図(縮尺1/20)