トレンチ壁面の観察から、何層もの地層内原堆積構造の乱れ(以下、液状化及び液状化層とする)が認められた。液状化層は6層準あり、下位層よりL1〜L6とした。これら液状化層を表2−5−8にまとめた。
本来の液状化は砂質層(または粗粒層)に対して用いられ、地震動によって地層中の間隙水圧が高まり粒子が浮遊する現象をさし、しばしば流動化を伴う。北金目トレンチの上限の構造は流動化の要素が強く、砂質層の液状化とは若干異なるが、粘土質地盤が強震動を受けた際の変形構造の表れとして液状化の用語を転用した。
L1ではシルト層の著しい剪断構造が全面に認められる。形状から、ある程度の固結状態での地震動によって形成されたと考えられる。
L2では粘土層のレンズ状ひきちぎれ構造がみられる。地表付近で流動状態における地震動によって形成されたとみられる。
L3は軽微なスコリア層の乱れ及び粘土層の擾乱が部分的(NL12〜16,SL17〜21,WL9〜11付近)にみられる。
L4ではM泥炭層と粘土層の境界の乱れが顕著で火炎状構造に類似した突起構造が著しい。その上位の粘土層にも全体に液状化が認められる。また、SL面とWL面のL砂礫層の直上の地層(M、N)が礫層に向かって陥没した構造が認められる。しかも、L砂礫層中には側壁と同質の粘土ブロックがとりこまれており、さらにWL面削りこみ部分のO砂礫層中にはN相当の粘土ブロックがとりこまれている。以上の状況から、L砂礫層は地震動に伴う液状化で砂分が噴出し、その体積圧縮分だけ上位層が落ちこんだと考えられる。Oの最下部の砂層及び砂礫層(W面では削りこみ構造の基底部)がその時の噴砂に相当する可能性がある。L砂礫層にラミナが全くみられないのは液状化によって乱されたことが原因と考えられる。この液状化の時期は上位層のM泥炭層及びN粘土層の堆積後であるから、M及びNを液状化させたL4と同時期である。
液状化L4の発生時期はL4とL5の発生時期が異なると考えた場合(L4は粘土層が未固結の状態で強震動を受けたもの、L5はある程度固結した状態でやや弱い地震動を受けて発生したと思われるため)、1630±90yBP以降(B2−1孔)、1150±60yBP以前となる。液状化による変状が最も激しいため、直下型または近地性の強震動によって形成された可能性がある。
L5はN粘土層(下部層)の地割れがあるが、かなり固結した状態で地震動を受けて生じた可能性が考えられる。L6は、軽微ながら粘土層が波浪状に巻き上げられ西方になびいてちぎれている。水流による堆積構造と相似な点もあるが、なびく方向が河川の流下方向と逆であることから、上位層をほとんどのせない状態で地震動で流動化したものと考えた。
表2−5−8 液状化一覧表
(2)地層の傾斜
ここで、地層の傾斜(標高差)はわずかであるため、主な地層について水準測量を行った。測量結果を図2−5−8−1、図2−5−8−2、図2−5−8−3に示す。測量を行った地層は以下の通りで各地層の下面の標高をとった。
MD2=P砂礫層下面の粘土層
MD1=N粘土層(中部層)
SC4=S−24−5層準
SC3=S−17もしくはS−22層準
SC2=S−11層準
SC1=S−7層準
TF
これらの図によると、いずれの地層も多少とも傾斜しているが、相対的に下位の2層(TFとSC1)の傾斜が大きく、その上位層は傾斜が小さいか、ほとんど水平である。特に最上位の粘土層(MD1,MD2)はほぼ水平である。しかも、下位の〔TF〜SC1間〕では、N面、S面とも西側に傾動しており、〔SC1〜SC2間〕ではN面の傾斜がやや弱いものの、ほぼ西側へ傾斜していると言える。
結局、TF層及びSC1層は西側へやや大きく傾斜し、SC2〜4層はほぼ同様に小さく西側へ傾斜していると言える
(3)北金目トレンチからみた断層活動の考察
北金目トレンチの調査結果のまとめを表2−5−9に示す。
当地区の伊勢原断層が活動した場合に起こり得る現象は、次のように考えられる。
@ 断層の活動
地層の変位(東上がりの逆断層)が生じる。ただし、軟弱な地層ではせん断面が地表に現れず、地層の撓曲変形、あるいは地層の傾斜として現れる。断層運動の際、直下型の大きな地震動が起こり、軟弱層は液状化等の変状が発生する。
A 水成堆積物の層厚調整
断層の両側とも静穏な堆積環境であれば、堆積物は低所を埋めるように堆積するはずである。すなわち、断層の下盤側の地層が上盤側よりも厚くなり、結果として地層上面は水平に近くなる。このようにして断層変動後の自然の層厚調整が行われると想定される。
前述のように北金目トレンチでは、地震動によると考えられる6層の液状化層が確認されている。もちろん、地層の液状化は、近傍の断層活動のみならず遠地地震による地震動によっても発生し得るため、伊勢原断層の活動によるものとは限らない。しかも、当地区は泥炭等の軟弱層の厚い地域であるため、とりわけ振動しやすいと言える。この6層の液状化層が何回の地震によるものか定かではないが、変状の形態が異なり、振動時の固結度も異なるとみられることから、複数回の地震動によるものと考えられる。伊勢原断層が活動した時はとりわけ大きな振動が発生し、激しい液状化現象が発生する可能性があり、同時に地層のせん断、あるいは撓曲変形や傾動が起こると考えられる。したがって上記の液状化のいずれかが伊勢原断層自体の活動に該当する可能性がある。
一方、本トレンチの地層傾斜はわずかで高度差は35pにすぎないが、下位のTF〜SC1間、及びSC1〜SC2間での傾斜が最も大きく、トレンチ西側ではE等の粘土層の層厚が厚くなっている。地層の傾斜も合わせて考えると、この層厚変化は断層活動後の層厚調整の可能性も考えられるが、本トレンチの範囲内だけでは、断層の活動時期や変位量を認定することが困難であり、浅層反射法探査およびボーリング調査結果も含めて総合的に検討する必要がある。その検討結果は第V章の総合解析で述べる。
図2−5−8−1 北金目トレンチ地層測量図(N面) 図2−5−8−2 北金目トレンチ地層測量図(S面)
図2−5−8−3 北金目トレンチ地層測量図(W面)
写真28<北金目>(1) 北金目トレンチ壁面写真(N面)
写真29<北金目>(2) 北金目トレンチ壁面写真(S面)
写真30<北金目>(3)
写真31、写真32、写真33<北金目>(4),(5),(6)
写真34<北金目>(7)
写真35、写真36、写真37 <北金目>(8),(9),(10)
写真38、写真39、写真40 <北金目>(11),(12),(13)
写真41、写真42、写真43 <北金目>(14),(15),(16)
写真44、写真45、写真46 <北金目>(17),(18),(19)
写真47、写真48、写真49 <北金目>(20),(21),(22)
写真50、写真51、写真52 <北金目>(23),(24),(25)
写真53、写真54、写真55 <北金目>(26),(27),(28)
表2−5−9 北金目トレンチ調査結果のまとめ