(1)トレンチ調査結果(展開図)

トレンチ調査結果のスケッチ図は≪別冊付図≫付図10−2−1、付図10−2−2「トレンチ法面スケッチ図(1/20)」に、それを縮小して付図5−2「トレンチ法面スケッチ図(1/50)」に示した。トレンチ周辺の地形平面図を図2−5−6、スケッチを単純化して地層分類をした図を図2−5−7−1図2−5−7−2図2−5−7−3に示した。また、トレンチ壁面写真を写真<北金目>(1)〜(28)に示した。

(1)北金目トレンチの地層構成

地層はほぼ小段より下が泥炭層と粘土またはシルトとの互層で、多数のスコリア層を挟む。トレンチ底面近くでは軽石質白色火山灰(TF)が層厚1p前後で、断続しながらもほぼ連続的に観察できる。泥炭層は未分解のものが多いが、中上部は腐植土化している。小段より上位は新期の粘土層、シルト層、砂層、砂礫層が不整合で何層も堆積している。

各地層は小段以下ではほとんど水平に近いが、わずかに西方、または南西方向に傾斜している(後述)。小段より上方では不整合によるかく乱のため不明部分が多いが、ほぼ水平と言える。

本トレンチの地層を下位より@〜Rと区分した。地層名と性状は以下のとおりである。

@有機質粘土層

未分解の植物片が散在する暗灰色の有機質粘土層。本層の中間に〔S−5〕※1スコリア層を挟む。

A泥炭層

未分解の植物片を多含する黒褐色の泥炭層。下位層との関係は整合で、境界は明瞭ではない。

Bシルト層

青褐色のシルト〜砂質シルト層。剪断構造が全面に認められる。下位層との関係は整合で、境界は明瞭。

C有機質粘土層

暗灰色の未分解の植物片が散在する有機質粘土層で、中部〜上部には、層厚5〜10pの黒色土を挟み、その上部に〔S−6−2〜3〕スコリア層が堆積する。また、最上部には青灰色砂質シルト層を部分的に堆積する。下位層との関係は整合で、境界は明瞭である。

D泥炭層

未分解の植物片を多含する暗灰褐色の泥炭層。中間に層厚1〜2pの白色火山灰層 TF ※2 を挟む。下位層との関係は整合で境界は明瞭である。

※1  〔  〕は、上杉 陽(都留文科大学文学部教授)氏鑑定によるテフラの名である。なお、この鑑

     定は肉眼鑑定のみによるもので、顕微鏡段階の確認作業が終了していない暫定的なものである。

※2   は、本トレンチにおいて、比較的連続性の良い主要なテフラや地層に付けた作業用の仮記

     号である。

E有機質粘土層

暗灰色〜褐灰色の未分解の植物片を散在する有機質粘土層。中部に SC1〔S−7〕スコリア層と上部に〔S−8〕スコリア層の2層のスコリア層が認められ、このスコリア層の中間に、幅2〜4pの黒色土層を挟む。また、上部の方がより有機質である。

下位層との関係は整合で、境界は比較的明瞭である。

F泥炭層

未分解の植物片を多く含む暗褐色の泥炭層。中部と上部に有機質粘土層を2層挟む。上部の有機質粘土層の下に、〔S−9〕スコリア層がある。また、この2枚の有機質粘土層の間に灰色粘土層があり、ひきちぎれたような構造がみられる。下位層との関係は整合で、境界は明瞭である。

G有機質粘土層

本層の下部の灰色粘土層最下部にスコリア層〔S−10〕がみられる。また、中下部にみられる SC2〔S−11〕スコリア層を挟んで上部が褐灰色有機質粘土層、下部が灰色粘土層となっている。また、この2層中にカワゴ平軽石〔Kg〕があり、不規則なレンズ状をなす。最上部には〔S−12〕スコリア層が含まれる。下位層との関係は整合で、境界は明瞭である。

H黒色土層

有機片を含む、スコリア質の黒色土。下位層との関係は整合で、境界はやや不明瞭である。

I泥炭層

未分解の植物片を多く含む暗褐色の泥炭層。最下部に〔S−13?〕スコリア層があり、中下部にも〔S−14?〕スコリア層がみられる。本層は上部では粘土質となる。

下位層との関係は整合で、境界は明瞭である。

J黒色土層

植物片を含む粘土質の黒色土。本層の下部に〔S−17もしくはS−22〕 SC3 スコリア層があり、上部には、〔S−24−1,S−24−2〕スコリア層がみられる。後者のスコリア層は不連続で、大半は上位のKスコリア質黒色土層中に散在しているものと思われる。また、前者のスコリア層と混在している場合もある。NL面では上位のKスコリア質黒色土層下部のシルト層に侵食され、一部レンズ状となる。

Kスコリア質黒色土層

φ0.5〜1.0o(max2o)のスコリアと長石の斑晶が散在するスコリア質の黒色土で、上部はシルト質の地層へと漸移する。また、最下部には、黄褐色、緑灰色シルト層がみられる。上部にS−24−3,S−24−4スコリアが散在する。

下位層との関係は、大半は整合であるがNL面の12〜21付近では下位のシルト層が下位のJ黒色土層を削り込んでいる。しかしこの侵食面は非常に不明瞭である。その他の地層境界は明瞭である。なお、本層下部より弥生時代後期の土器が出土した。

L砂礫層

WL面とSL面にみられる。φ5〜50o(max120o)の亜角〜亜円礫を主体とし、マトリクスは中〜粗砂である。礫種は安山岩、緑色岩、砂岩である。また、φ20〜50pのレンズ状の粘土ブロックを介在する。分級が非常に悪く、ラミナは全くみられない。下位層との関係は不整合である。本層はF〜G(〔S−9〜11〕相当)まで削り込み、M(〔S−24−5〕相当)に被われる。

M泥炭層

未分解の植物片を多含する黒褐色泥炭層、中部に〔S−24−5〕 SC4 スコリア層を挟む。この泥炭層の上部は、非常に激しい凹凸、突起状をなし、一部では上位のN礫混じり粘土層がブロック状に落ち込む。下位層との関係は整合で、境界は明瞭である。

N粘土層

本層は3層に細分する事ができる。下部の礫混じり粘土層、中部の粘土・シルト・細砂の互層をなす MD1 層及び上部の粘土〜シルト層である。下部層は、細礫が点在する暗灰色粘土層で、黄白色の粘土のパッチが散在する。この層から古墳時代中〜後期の土器が出土した。中部層は暗紫灰色、暗青灰色のシルト・粘土・細砂の互層で、最下部のシルトには地割れ構造がみられ、下部層にくさび状に入り込む。上部層は、灰褐色の粘土〜シルト層で黄白色粘土の破片状パッチが混在し、上部ほど粘土質となる。この層はSU面とWU面にしかみられない。これら3層はいずれも整合で下位のL泥炭層とも整合である。

O粘土混り砂礫層

本層は非常に不均質な堆積物で、粘土・シルト・砂・礫の混合層である。円〜亜円礫の細〜中礫が散在し、また、砂・シルト・粘土のパッチが点在する。最下部、中部、上部にそれぞれ不連続な砂礫層があり、中部の砂礫層上面には波浪状構造がみられる。下位層との関係は不整合である。

P砂礫層

最下部の中〜粗砂を主体とする砂礫層と、中間にシルト〜粘土の薄層を挟むφ5〜80o(max130mm)の亜円〜亜角礫を主体とする。砂礫層から成る礫種は緑色岩、安山岩、凝灰角礫岩、泥岩、砂岩である。本層最下部の粘土層を MD2 とした。下位層との関係は不整合である。

Q砂層

中〜細砂を主体とし、部分的にシルト質もしくはシルト混りの砂層となる。また、砂礫層の薄層を挟む。本層の上部に宝永スコリア層(Ho)が堆積している。下位層との関係は不整合。

R表土及び耕作土

茶褐色のシルト質土。本層中部にも宝永スコリア層が点在しているが人工的なものと思われる。

(2)北金目トレンチのテフラ層

北金目トレンチでは多くのスコリア層、軽石層が確認された。特に小段から下位の層準はテフラ層の保存が良く、ほぼテフラ層準が確認できた。本トレンチでは、19層のスコリア層と2層の軽石・火山灰層が確認された。その性状等は下位より次のとおりである。

・〔S−5〕スコリア層

@有機質粘土層中部にみられる中粒(φ1〜3o,max.5o)のスコリア。層厚は2〜6pで全面に連続して確認することができる。

・〔S−6−2〜3〕スコリア層

C有機質粘土層上部にみられる中粒(φ2〜3mm)スコリア層。層厚は2〜4cmで全面に連続して確認することができる。

・白色火山灰層 TF

D泥炭層中部にみられる細粒の軽石質な白色火山灰層で、細粒パウダー状、火山ガラスを含む、層厚は1〜2pで断続的ながら全面に確認できる。

・〔S−7〕スコリア層 SC1

E有機質粘土層中部にみられる中粒(φ1〜3o,max.5o)のスコリア層で発泡が良い。層厚は6〜10pで全面に連続して確認することができる。

・〔S−8〕スコリア層

E有機質粘土層上部にみられる中粒(φ3〜4o)のスコリア層で、層厚は2〜4p、薄層ではあるが、ほぼ連続して全面に確認することができる。

・〔S−8´〕スコリア層

F泥炭層下部にみられる極細粒(φ<0.5o)のスコリア。層厚が数o程度と薄く部分的に確認されただけである。

・〔S−9〕スコリア層

F泥炭層上部にみられる極細粒(φ<0.5o)のスコリア。層厚は2〜5pで、全面に連続して(一部断続的)確認することができる。

・〔S−10〕スコリア層

G有機質粘土層最下部にみられる中粒(φ2〜4o,max6o)のスコリア。層厚は1〜2pで、全面に連続して確認することができる。

・〔S−11〕スコリア層 SC2

G有機質粘土層中部にみられる粗粒(φ4〜5o)のスコリア。層厚は4〜5pで、全面に連続して確認することができる。

・〔Kg〕カワゴ平軽石層

G有機質粘土層中の〔S−11〕を挟んで両側にみられる。黄白色、黄褐色の軽石層で、本トレンチでは粘土状もしくはノジュールに似た固結粘土状を呈し、レンズ状もしくはブロック状に点在する。

・〔S−12〕スコリア層

G有機質粘土層上部にみられる細粒(φ1〜2o)スコリア。層厚は1〜2pでNL面、WL面では連続して確認できるが、SL面では断続的である。

・〔S−13?〕スコリア層(砂沢スコリア層)

I泥炭層最下部にみられる中粒(φ3〜5o,max7o)のスコリア。層厚は2〜7pで、全面に連続して確認することができる。

・〔S−14?〕スコリア層

I泥炭層中部にみられる細粒(φ1〜2o)のスコリア。層厚は1〜2pと薄層ではあるが、ほぼ連続して確認する事ができる。

・〔S−17もしくはS−22?〕スコリア層  SC3

J黒色土層の最下部にみられる中〜細粒(φ2〜4o,max5o)のスコリア層で、NL面の12から16付近では上位の〔S−24−1〕,〔S−24−2〕スコリアと混在する。層厚は3〜10pで全面に連続して確認することが出来る。

・S−24−1〕,〔S−24−2〕スコリア層  

Kスコリア質黒色土層最下部にみられる中粒のスコリア。

層をなすのはNL面の11から21までの一部で大半は、K層中に散在しているか、もしくは、下位の〔S−17もしくはS−22?〕スコリア層と混在していると思われる。

・〔S−24−3〕スコリア層  

Kスコリア質黒色土層下部にみられる細粒(φ1〜2o)のスコリア層、φ4〜5pのダンゴ状、もしくは、レンズ状を呈す。

・〔S−24−4〕スコリア  

Kスコリア質黒色土層中部付近に散在する細粒のスコリア。層状には確認する事はできない。

・〔S−24−5〕スコリア層  

M泥炭層中にみられる極めて粗粒(φ5〜7o,max15o)のスコリア層。発泡良く、赤スコ(レンガ色のスコリア)が散在する。層厚は1〜3p、全面に連続して確認することができる

・宝永スコリア層(Ho)

Q砂層最上部にみられる細粒(φ1〜2mm)のスコリア層。φ2〜5mmの軽石が散在する。また、上位のR表土及び耕作土層にもみられるため、人工的に乱されている可能性がある。

(3)北金目トレンチでみられる地質構造

トレンチでみられる地層は、全体がほぼ水平と言えるが、小段以下の地層はわずかに西方に傾斜している。傾斜の詳細は水準測量による5−4−3(2)の地層の傾斜の項目で述べる。

各々の地層の層厚はほぼ等層厚で比較的連続性がよいと言えるが、一部は地震動に伴う地層の乱れがあり、地層のせん断(B)、レンズ状ひきちぎれ(F)、火炎状の突起構造(J)、地割れ(N)等の異状が認められる。それらの地層の乱れの詳細は5−4−3(1)の液状化の項目で述べる。

北金目トレンチでは、不整合は4面確認された。下位より、A 〜 D とし、各面のスケッチ概要図に表示した。状況は以下の通りである。

A:WL面とSL面中上部にみられるL砂礫層が形成したチャネル状の削り込みで、

削り込んだ層準はKスコリア質黒色土層の中下部付近からF泥炭層中部付近まで達する。上位のM泥炭層及びN粘土層は、乱れて堆積する。チャネル状流路の方向は、トレンチW面からS面をかすめてE面方向へ蛇行しながら流れていたものと思われる。

B:O粘土混じり砂礫層の下面に当たり、N粘土層を削り込む。侵食の流向は北西から南東方向(一部は東西か?)であったと思われる。

C:P砂礫層の下面に当たり、O粘土混じり砂礫層を削り込む。侵食の流向は北から南の方向であったと思われる。

D:Q砂層の下面に当たり、P砂礫層を削り込む。侵食の流向はほぼ西から東の方向と思われる。

図2−5−6 トレンチ周辺の地形平面図<北金目トレンチ>   図2−5−7−1 スケッチ概要図<北金目トレンチN面>図2−5−7−2 スケッチ概要図<北金目トレンチS面>     図2−5−7−3 スケッチ概要図<北金目トレンチW面>