(2)年代測定及び諸分析結果

(1)14C年代測定

トレンチ試料による14C年代測定データは、≪別冊資料≫4−@ 14C年代測定結果に添付し、結果を表2−5−2に示す。このうち、No.3,6,7,9の年代値はテフラの既知の年代値や堆積速度からみて新しすぎる。例えばNo.3のカワゴ平軽石層(Kg)は2900yBPとされているのに対し、2430±70yBPとなっており、少なくとも400年余新しい。同様に泥炭層の年代値はすべてずれる。

表2−5−2 日向トレンチの14C年代測定結果((株)地球科学研究所による)

(2)テフラ分析

トレンチ試料によるテフラ分析データは、≪別冊資料≫4−A テフラ分析結果に添付し、結果を表2−5−3 に示す。

表2−5−3 日向トレンチのテフラ分析結果 ((株)京都フィッション・トラックによる)

目視上は、試料No.31,33、さらに北金目地区のNo.29(B2−2)とも同様の軽石質白色火山灰である。屈折率からみると、いずれの試料もn、γともほぼ同等に見えるが、No.30(Kg)は、No.29も含めた他試料よりも明らかに上位の層準であるから同一のテフラではない。結局、No.31,32,33は採取位置が多少異なるものの同一の火山灰で、No.30はKgの風化物と考えられる。

(3)考古遺物の鑑定

トレンチの掘削の際、少数ながら縄文土器等の遺物が出土した。これを伊勢原市に鑑定 して頂き、解釈の参考とした。遺物の採取位置はスケッチ図に表示し、結果を表2−5−5 に示す。

表2−5−5 トレンチ出土の考古遺物と鑑定結果

(4)日向トレンチの植物化石分析結果(自社研究)

N面のN20付近の削り込み地形に堆積した泥炭層等の古環境を検討するため、ブロック試料を採取し、花粉・珪藻・種子等の分析をした。試料採取位置を図2−5−4に、分析結果を図2−5−5−1図2−5−5−2に示す。

分析試料は、日向トレンチ中の最も泥炭の発達した箇所(X座標:N19.8〜N20.0)から採取した。試料bP〜6は弱分解質泥炭でbR〜5はスコリアを混じる(湯舟第一スコリア、カワゴ平軽石層準)。bV〜8は粘土混じり泥炭である。

〈花粉化石分析結果〉

図2−5−5−1に示すように、試料bP〜5はスギ属が卓越し、6〜8はコナラ亜属が卓

越する。これと前出のボーリングB1−2,3,4による花粉分帯(HNP−T〜V)とを対照とすると次のようになる。

・HNP−U帯:スギ属−コナラ亜属−アカガシ亜属帯(試料bU〜8に相当)

古植生はスギ属、ナラ類、カシ類等から成り、針葉樹と広葉樹の混交林で照葉樹林が成立していた。古気候は降水量の多い暖温帯性と推定される。

図2−5−4 試料採取位置

・HNP−V:スギ属帯(試料bP〜5に相当)

スギ属が優先し、コナラ亜属、アカガシ亜属を産出する。古植生はスギ属を主体とする温帯針葉樹林で、照葉樹林と混交していたとみられる。古気候はやはり降水量の多い暖温帯と推定される。

〈珪藻化石分析結果〉

図2−5−5−2に示すように、産出した珪藻化石はいずれも淡水生種である。全体に流水不定性種を産し、bS〜5では好止水性種のAuracoseira italica var. validaを多産することから、bS〜5付近では、水深の浅い停滞水域の環境をうかがわせる。bPでは陸生珪藻を多産することから、湿地・水辺の環境から陸化への環境変化があったものと推定される。

珪藻化石群集から推定される堆積環境は次のとおりである。

 ・T帯:(試料bU〜8、深度−3.85〜−1.90m)

     水深の浅い(1m内外)、一面に植物が繁茂した沼沢、あるいは湿地。

 ・U帯:(試料bS〜5、深度−1.65〜−1.37m)

     やや富栄養の池沼等の止水域。

 ・V帯:(試料bR、深度−1.30〜−1.20m)

     沼沢地から湿地の環境で、好塩性種を産することから、水の出入りの少ない閉鎖的な環境が示唆される。

 ・W帯:(試料bQ、深度−1.20〜−1.00m)

     化石の産出が少ないので考察できない。

 ・X帯:(試料bP、深度−1.00〜−0.90m)

     おおむね湿地から沼沢地であるが、陸生珪藻が卓越したことから、冠水することのない場所も存在するような湿地の環境(一部、離水か)と推定される。

〈種子化石等の分析結果〉

分析試料はほとんどが弱分解の泥炭でヨシ等に由来する地下茎を多量に含有する。すなわち、本地域の泥炭はヨシに由来する草本質の泥炭である。また、植物遺体をみると、ヒルムシロ属、スゲ属、ホタルイ属、オトギリソウ属など、水生植物を多く含む分類群が多く、ヨシとともにこれらも生育していたと思われる。このような植物相から考えると、水深の浅い沼沢地で、ヨシ群落が発達していたと推定される。

なお、ブロック試料中の材化石は、bV試料のみで見つかり、これはコナラ亜属クヌギ節であることがわかった。この層準からは、分析試料には含まれていなかったが、クヌギの実(いわゆるドングリ)も見つかっている。

以上の結果から、古環境は、下位の粘土層〜泥炭層下部は比較的自由に流水が通りやすい状況で、泥炭層の中央部は停滞水の環境だったと推定される。一方、泥炭層の上部(黒色土化)ではほとんど陸化したことを示しており、bP試料より上部では、長期間にわたって発達した湿原の時代が終了し、これより上位が陸化していくことを示すものとみられる。

図2−5−5−1 花粉化石群集の変遷(日向トレンチN面)

(パリノ・サーヴェイ(株)による)

図2−5−5−2 珪藻化石群集の変遷(日向トレンチN面)