(3)微化石等分析(花粉・珪藻・有孔虫)

ボーリング試料による微化石等分析データは、≪別冊資料≫ 4−B 花粉・珪藻・有孔虫分析結果に添付した。微化石等分析内容を表2−4−4に示す。

表2−4−4 ボーリング試料の微化石等分析試料(パリノ・サーヴェイ(株)による)

@花粉分析の結果

花粉分析の結果を地区ごとにまとめ、図2−4−4図2−4−6の花粉化石群集変遷図に示した。

A珪藻分析の結果

珪藻分析の結果を地区ごとにまとめ、図2−4−7図2−4−8の珪藻化石群集変遷図に示した。

B有孔虫分析の結果

有孔虫化石は7試料のいずれからも認められなかった。その理由は、試料採取地点が汽水性の入江や内湾のために有孔虫が生息していなかったか、または後で溶解して失われたことが考えられる。

その他の分析結果は、植物片の他に、貝片、ウニ刺片、珪藻、骨針、イネ科植物細胞中に形成される植物珪酸体(プラントオパール)などの化石が認められた。

C微化石等分析(花粉・珪藻・有孔虫)のまとめ及び考察

ボーリング試料の花粉・珪藻・有孔虫化石分析を行った結果、伊勢原市から平塚市における古環境の変遷は以下のように推定される。

花粉分析の結果からAT降灰期の約2.5万年前は、モミ属、トウヒ属、ツガ属、マツ属単維管束亜属などの亜寒帯性針葉樹林が成立していたとみられる。この森林には、ハンノキ属、コナラ属、ニレ属−ケヤキ属、クマシデ属−アサダ属、カバノキ属、ブナ属などの落葉広葉樹と冷温〜温帯性針葉樹のスギ属なども分布し、古気候は冷温帯上部から亜寒帯性であった。

約8,500〜4,700年前は、エノキ属−ムクノキ属、ナラ属などの暖温帯性落葉広葉樹が主体となるが、この森林には常緑広葉樹のカシ類も多く分布しており、暖温帯性の照葉樹林の様相を呈していた。

珪藻化石によると、B2−1ボーリング(北金目地区)では、この時期の下部約8,300年前にはHantzschia amphioxys、Navicula muticaおよびPinnularia schroederiiなど離水した場所で乾燥に耐えられる群集(B2−1−U帯)からなることから、比較的乾いた環境下で、水の影響が少ない状況にあったことが推定され、その後、海水〜汽水生種のCoconeis scutellumおよび汽水生種のNitzschia granulata等が卓越する群集(B2−1−U帯)になることから、常に海水と淡水の影響を受けるような内湾の遠浅地や河口の砂泥地(砂〜泥質干潟)のような環境になる。そして、約5,000年前頃になると淡水生種の流水不定性種であるRhopalodia gibberula、Amphora ovalis var.affinisなどの産出により海退後の塩性の後背湿地(B2−1−W帯)、さらに好流水性種のAchnanthes lanceolataの多産により周辺の河川水等が流れ込んできた可能が指摘される(B2−1−X帯)。

一方、有孔中化石は産出しなかったものの、貝殻、ウニ刺片などを産出することから汽水域の環境が推定される。

なお、花粉化石群集から同時代と推定されるB2−3ボーリングの珪藻化石群集は、B2−3−T帯及びB2−3−U帯であり、内湾奥部または干潟域の環境から、水の影響の少ないやや乾いた環境に移行したものと推定される。以上のことは、本地域における約8,500〜4,700年前の縄文海進から海退という堆積環境の変化を示すものと考えられる。

約4,700〜2,500年前は温帯針葉樹のスギ属、落葉広葉樹のナラ属、常緑広葉樹のカシ類など暖温帯性の針広葉樹が混交林しており、照葉樹林が成立し、降水量の多い暖温帯性の気候であったとみられる。珪藻化石によると、堆積環境は、B2−1ボーリングではAchnanthes lanceolata、Cocconeis placentulaあるいはSynedra ulnaを伴う群集(B2−1−Y帯)が認められ、基本的には乾いたものの、沼沢湿地様の環境から、水生珪藻と陸生珪藻、あるいは水の流れがある水域に生育する種と止水域に生育する種というように、通常では共存しえない種群が混在している群集(B2−1−Z帯)からなり、常に河川水の影響を受けるような不安定な環境へと変化したと考えられる。

約2,600〜1,000年前は、スギ属を主体とする温帯針葉樹が分布を広げたが、落葉広葉樹のナラ類、常緑広葉樹のカシ類なども分布しておりこれらの樹木と混交していた。林分としてはスギ属が優占するものの、カシ類も多いことから照葉樹林帯に入る。古気候は降水量の多い暖温帯性であった。堆積環境は、B2−1ボーリングではB2−1−Z帯のような、常に河川水の影響を受けるような不安定な環境が続いていた。

約1,000年前以降になると、マツ属複雑管束亜属(おそらくアカマツ)が分布を拡大し、優占するようになった。これは、一般的には、人の生業活動に伴う自然植生の破壊と考えられており、常緑広葉樹のアカガシ亜属、温帯針葉樹のスギ属などが伐採され、それらに替わるマツの二次林の発達や植林を示唆するものである。B2−1ボーリングの珪藻化石では、好止水性種のFragilaria brevistriata、Fragilaria construensが優勢を占めることで特徴づけられ(B2−1−[帯)、水深の浅い富栄養な湿地あるいは沼沢地的な環境になったと推定される。

図2−4−4 花粉化石群集変遷図(伊勢原市日向地区 B1−2,B1−3,B1−4)

図2−4−5 花粉化石群集変遷図(平塚市北金目地区 B2−1)

図2−4−6 花粉化石群集変遷図(平塚市北金目地区 B2−3)

図2−4−7 珪藻化石群集変遷図(平塚市北金目地区 B2−1)

図2−4−8 珪藻化石群集変遷図(平塚市北金目地区 B2−3)