峰岸地区で航測図化を行った9断面の調査位置と地形分類を図2−2−14に示し、航測図化の結果を図2−2−15−1、図2−2−15−2に示す。この図は、測線の西側から10m間隔で標高をデジタル化(≪別冊資料≫2−@地形測量デジタルデータに添付)した結果をもとに作成したものである。
本地区は、伊勢原台地(下末吉面)の北端部に位置し、この台地北端部を取り囲むようにして、鈴川の扇状地面(武蔵野面)や立川面が分布している。また、鈴川および渋田川水系の小河川がこの扇状地面、段丘面を削剥して、沖積低地が樹枝状に分布している。
伊勢原断層は、この地区の南側では伊勢原台地西縁沿いにのびる沖積低地下を通過しており、北側では扇状地面とそれを刻む東西方向の谷間を横切って通過している。また、この北側では、断層西側沿いの谷間の上流部に低湿地が形成されており、戦後の土地利用が進むまで荒地となっていた。
A断面は立川面と武蔵野面、B断面は立川面(一部武蔵野面)、C断面は立川面上の谷沿いの断面である。DからHの5断面は、扇状地面、立川面及び沖積低地と伊勢原台地上の断面であり、このうち、F断面は国道246号沿いの断面である。これらの断面から下記の事項が読みとれる。
@C断面は、扇状地面を刻む谷底沿いの断面であるが、断層がこの谷間を横断する付近で、下流側の谷底面が上流側の谷底面に対して約1.5m隆起している。また、このC断面の谷より1つ北側の谷部では、断層の西側(谷の上流側)で急に谷幅が広がって、低湿地域が形成されている。これは、断層運動によって下流側が隆起した結果、相対的に低下した上流側に低湿地が形成されたものと解釈される。
この低湿地は、市街化が進み、集合住宅が多く建築されているが、ボーリング資料が残されておらず、断層運動に対応する湿地堆積物に関する情報は得られていない。しかし、断層の両側での約1.5mの谷底面の標高差は伊勢原断層の最新活動時の変位量を示唆するものと考えられる。
AB(1),B(2)断面は、全体に東側に傾斜する立川面が明瞭な東側隆起の撓曲地形を呈するところにあたり、その垂直変位量は3.5〜4.0mである。また、A断面は一部低湿地と孤立丘をとりまく立川面、武蔵面との比較である。孤立丘の西側に分布する立川面は西側に向かって逆傾斜することが読みとれる。
BD,E,F,G,H断面における断層の両側での沖積低地と伊勢原台地面(下末吉面)の標高差は5.5〜12.0mである。ここでの沖積低地は、扇状地面(武蔵野面)、立川面を小規模に削剥して、台地の西縁に沿って南北にのびた谷間にあたっており、5.5〜12.0mの標高差は大局的には、立川面と下末吉面の間の垂直変位量と考えられる。
CB(1)、B(2)断面付近は、広く立川ローム層によって覆われており既存ボーリング資料によれば、その下位に立川礫層が認められるので、その地形面の形成時代を2〜3万年前と仮定して、各断面の垂直変位量および平均変位速度を推定すると、表2−2−4のようになる。
平均変位速度(S)は、扇状地面の撓曲部(B(1),B(2)断面)で約0.13〜0.20m/千年と見積もられる。ただし、この値は、地表面の変位量から求めたものであり、特に、B(1),B(2)断面では武蔵野面の撓曲部での垂直変位量から求めたものである。本来ならば、ボーリング資料による基底面の対比を行うべきであるが、断層の東側に数点の資料が得られただけで、断層の西側に資料がないため、この作業は出来なかった。したがって、今回得られた変位量は、実際の伊勢原断層の変位量に比べて幾分過小の値と考えられ、伊勢原市峰岸地区の平均変位速度は0.2m/千年以上の可能性も考えられる。
表2−2−4 伊勢原市峰岸地区の地形測量(航測図化)結果
図2−2−14航測図化位置及び地形分類図(伊勢原市峰岸地区)
図2−2−15−1 航測図化(地形測量図)結果(伊勢原市峰岸地区)
図2−2−15−2 航測図化(地形測量図)結果(伊勢原市峰岸地区)