(1)地質各説

調査地域には、丹沢山地を構成する新第三系の丹沢層群と、丹沢山地の北縁〜東縁部及び丹沢山地東側の丘陵、台地を構成する新第三系の愛川層群、大磯丘陵に分布する鮮新世〜更新世の堆積物である鷹取山層、第四紀更新世後期堆積物である相模層群(多摩面構成層、下末吉面構成層)、新期段丘堆積層・新期ローム層(武蔵野面構成層、立川面構成層)、及び完新世の堆積物が分布する。

〈丹沢層群(Trt)〉

本地域に分布する丹沢層群は、下位からの不動尻層、大沢層、谷太郎層、寺家層、落合層細分されている。また、上位の愛川層群とは断層(青野原−煤ヶ谷線)で接している。

@不動尻層(F)

本層は、七沢温泉付近に分布する。淡灰緑色のデイサイト質火山礫凝灰岩〜粗粒凝灰岩で、淡青緑色のパッチを含みわずかながら泥岩が挾在する。調査地域での走向・傾斜は、七沢温泉近くの露頭で確認されたものでN75°E、40°Nである。

A大沢層(Os)

本層は、厚木市足ヶ久保から道志川にかけて分布する。デイサイト質の火砕岩と玄武岩〜安山岩質火砕岩からなる。調査地域南東側の谷太郎川ではデイサイト質火山礫凝灰岩が多く、四十八瀬川付近では玄武岩〜安山岩質火山礫凝灰岩が多くなり、さらに北西ではデイサイト質の火砕岩へと変化している。調査地域での走向・傾斜は、概ねN50°〜60°W、40°〜70°Eである。

B谷太郎層(Ya)

本層は、伊勢原市上粕屋の西及び厚木市足ヶ久保〜宮ヶ瀬にかけて分布する。凝灰質泥岩,玄武岩質凝灰岩,デイサイト質凝灰岩の互層で、玄武岩質〜安山岩質の火山礫凝灰岩〜凝灰角礫岩を含む。今回の調査では清川ゴルフ場付近から谷太郎側沿い、宮ヶ瀬にかけて確認する事ができた。走向・傾斜は概ねN15°〜40°W、40°〜60°Eである。

C寺家層(Gi)

本層は、清川村別所付近より法論堂を経て串川にかけて分布する。小鮎川の枝沢や川弟川沿いによく確認することができる。黒色泥岩優勢の泥岩砂岩互層で、走向・傾斜は概ねN45〜60W、50〜60Eである。

D落合層(Oc)

本層は、清川村宮ヶ瀬から道志川にかけて分布する。礫岩・泥岩からなっている。

愛川層群(Tra)〉

愛川層群は、下位から宮ヶ瀬層,舟沢層,中津峡層に細分されている。

@宮ヶ瀬層(My)

本層は、厚木市上谷戸から津久井町宮之前にかけて分布する。安山岩質火砕岩を主とし、デイサイト質凝灰岩,泥岩,砂岩を伴っている。調査地域での走向・傾斜は、N30°〜60°W、45°〜70°Eである。

A舟沢層(Fu)

本層は、厚木市川端から道志川にかけて分布する。泥岩,凝灰質砂岩の互層を主とし、安山岩およびデイサイト質火砕岩を狭在している。調査地域での走向・傾斜は、南部の上谷戸付近で確認されたものではNS、40°Wで、北部ではN30°〜50°W、30°Eである。

B中津峡層(Nk)

中津峡凝灰岩(Nk)と順礼峠礫岩・砂岩・泥岩(J)に細分され、両者の関係は指交関係とされている。中津凝灰岩は、調査地域の新第三系分布域の東端を占め、伊勢原市栗窪から道志川にかけて分布する。安山岩質火山礫凝灰岩と凝灰角礫岩が主で、デイサイト質凝灰岩,泥岩・砂岩がわずかに挾在する。また、一部には安山岩溶岩を挟んでいる。調査地域の走向・傾斜は、N10°〜30°W、50°〜60°Eである。順礼峠礫岩・砂岩・泥岩は、伊勢原市の東海大学付属病院付近から厚木市の大門付近にかけて分布する。本層は中津峡凝灰岩と指交関係にあり、先第三系の礫を含む礫岩・砂岩の互層,砂岩・泥岩の互層からなる。

〈足柄層群相当層〉

@鷹取山層(Tk)

本層は、調査地域の南端の大磯丘陵に分布する。礫岩及び安山岩質の溶岩、火山角礫岩からなり、調査地域内では、表層部をローム層が厚く覆っている。

〈相模層群(SG)〉

相模層群は岡ほか(1979)43)によると長沼層から下末吉ローム層までの堆積物とされており、本報告書でもこれに準じた。今回は多摩ローム層、下末吉ローム層の2層に分類した。

@多摩面構成層(T)

調査地域に分布する下庭層(陸成層・海成層)、早田層(陸成層)、土屋層(海進堆積物)及びそのローム層を総称して多摩面構成層とした。

約50万年前から14.5万年前の間に堆積したもので、金目川沿い及び伊勢原台地中部〜東部に分布している。

A下末吉面構成層(S)

調査地域では、南部の大磯丘陵の東部、伊勢原台地の西部および厚木市の馬場に分布している。約15万年前〜12万年前の海進堆積物である下末吉層(相当層)と、約7万年前までの下末吉ローム層からなる。下末吉ローム層は軽石層を多く挟む固結したローム層で、地表踏査では厚木市馬場のリハビリセンター近くの露頭でローム層の一部が確認されただけである。

〈新期段丘堆積層・新期ローム層〉

新期段丘堆積層及び新期ローム層は武蔵野面構成層と立川面構成層である。

@武蔵野面構成層(M)

調査地域では、鈴川,歌川,玉川,恩曽川,道志川流域に分布する。

武蔵野面構成層は、約7万年前から3.2万年前の間に堆積した武蔵野段丘礫層(相当層)および武蔵野ローム層からなる。このローム層は伊勢原台地や伊勢原市峰岸、リハビリセンター周辺で確認することができる。本ローム層は後述する立川ローム層に比べると硬く細粒のものが多い。主な鍵層として、東京軽石(TP)や東京軽石流(TP−fl)、三浦軽石(MP)、安針軽石(AP)などがあり、これらの鍵層は露頭においても数ヶ所で確認された。また、このローム層には多くの亀裂や小断層もみられた。

A立川面構成層(Tc)

調査地域では、各河川の流域に分布している。立川面構成層は、約3.2万年前から1万年前の間に堆積した立川段丘礫層(相当層)および立川ローム層からなる。このローム層は、全体的に粗粒で柔らかいものが多く、スコリア質である。主な鍵層としては、姶良Tn火山灰(AT)があり、今回の調査でも数ヶ所で確認された。

〈完新世堆積物〉

@沖積層(低湿地堆積物)(A)

調査地域の主要な河川に沿って、沖積層が厚く堆積している。本地域南部の沖積層は、およそ6,000年前に海成層から陸成層へと遷移している。また、その後も堆積環境の変化が著しい

A谷底堆積物(r)

主に段丘上及び沖積層の上流域に分布する。礫や砂、腐植土などから構成されている。

B扇状地堆積物(f)

完新世の扇状地は、厚木市久保屋敷付近と厚木市馬場付近に小規模に分布するだけである。礫や砂から構成される。

C崖錐堆積物(Ta)

崖錐堆積物は山裾や段丘崖を覆って全域に分布する。

D土石流堆積物(d)

各河川の上流域に分布する。角〜亜角礫混じりの砂礫。