(1)各地区の調査結果の総合解析

(1)伊勢原市日向地区 (図3−1−2参照)

日向地区ではボーリング調査、トレンチ調査、及び浅層反射法探査を行っており、主にボーリング調査(日向川扇状地の末端部において)の結果から、次のように考察される。

@地質断面図(図3−1−2)から、扇状地面とは逆の西傾斜の礫層がみられる(下位から武蔵野礫層Mg、下部立川礫層Tcg−1、上部立川礫層Tcg−2)。各礫層は日向川扇状地の堆積物で、地層傾斜は本来東傾斜であった。このことから、各礫層の変位が読みとれる。結果は表のとおりである。同表より、日向地区の扇状地末端部の平均変位速度は、合計の変位量から求めた0.22m/千年が妥当と考えられる。

表1−2−3 日向地区の平均変位速度

AボーリングB1−5とB1−4には地層の連続性がないことから、両孔間の地形境界部(丘陵の西縁)に断層が推定される。この断層には丘陵地を形成した東上がりの運動があったと思われるが、今回の調査では活動性を明らかにすることができなかった。この断層運動を考慮すれば、日向地区全体の変位量と変位速度はさらに大きくなる可能性が残されている。

(2)平塚市北金目地区 (図3−1−5参照)

北金目地区では浅層反射法探査、ボーリング調査、トレンチ調査を行っている。

@北金目トレンチの標準柱状図とトレンチ西方のボーリングB2−1のテフラ対比図(図 3−1−6)によると、スコリア等テフラの分布標高に明瞭な高度差(トレンチ側が高 い)がみられた。高度差は

・下位のS−5〜S−7及び白色火山灰(TF)では60〜81cm、

・上位のS−24−5(SC4)では68cmである。

このうち、安定水域下で水平に堆積したテフラは、泥炭中に挟在する白色火山灰層(TF)とS−24−5スコリア層(SC4)である。各々の高度差は断層運動に起因し、その平均は75cmで、これがトレンチとボーリング間の真の変位量と思われる。

A上記の地層の高度差が断層活動による変位と考えると、活動時期はS−24−5以降の1回で、1630±70yBP〜宝永テフラ堆積(1707AD)までの間である。この時の変位量は約75cm東上がりである。ただし、トレンチとB2−1間の変位量75cmは断層全体の変位量を反映しているとは限らない。調査範囲内における白色火山灰(TF)の全体の高度差は94cmである(B2−1〜B2−10間)。このことから伊勢原断層の1回の活動に伴う垂直変位量は約1.0mと考えられる。

(3)岡崎地区と北金目地区のボーリング調査結果の比較 (図3−1−7参照)

伊勢原台地の南方、伊勢原断層の延長上で今永ほか(1982)8)のボーリングA、Bと松田ほか(1988)31)のボーリングW・X・Y・Z(結局、ボーリングの配置は、西側から〔B・Y・W・X・Z・A〕の順となる)が行われている。

今永ほかの調査から、完新世海成層上面の標高差は3.48m東上がり、松田ほかによるY〜Z間で約6000年前の海成層上面及び約1100年前のテフラ層の標高差は1.6±0.6m東上がりであった。両者の標高差の違いから、松田ほかはA〜Z間とB〜Y間に断層または撓曲の存在の可能性を指摘している。

今回調査の北金目地区では断層を挟んでB2−1〜B2−5ほかのボーリング調査を行っている。その結果、海成層上面の標高差は1.4〜2.5m東上がりであった。ただし、西側のボーリング地点では海成層上面が侵食されている可能性もあり、真の変位量は不明である。

これらの結果から、岡崎地区の既存ボーリングから推定された断層が南方の北金目地区まで延びている可能性があり、いずれも東上がりである。しかも、南側の地盤が隆起した可能性が示唆される。