@の肥薩火山岩類と四万十層群破砕部とを境する高角度正断層は, 中部更新統と推定される堆積物に変位を与えていないことが明らかとなった。
Aの四万十層群破砕部内の高角度断層は, その条線から横ずれ変位が卓越した断層と推定され, 入戸火砕流堆積物(約 2.5万年前)よりもかなり古い堆積物に変位を与えていないことが確認された。
Bの正断層は, 断層面の傾斜が50°程度と比較的低角度である。この断層はその条線から変位は鉛直方向が卓越しているものと推定され,入戸火砕流堆積物堆積以降に活動したことが確認された。
日添セグメントでは,リニアメントはBの断層の位置に対応しており,リニアメントに沿った横ずれ地形が認められないことは,Bの断層の変位方向が鉛直卓越型と推定したことと整合的である。@及びAの断層の位置にリニアメントは判読されず,両断層の地形との対応は認められない。
宇都野々セグメントにおいても,日添セグメントと同様,Bの鉛直変位卓越型の比較的低角度な正断層がリニアメントと対応しており,リニアメントに沿った横ずれ地形も認められない。本セグメントにおける@の肥薩火山岩類と四万十層群との境界断層は,反射探査によって,Bの断層の北西300m付近に存在するものと推定され,日添セグメントと同様,この境界断層と地形との対応は認められない。Aの横ずれ卓越型の断層は,未確認であるが,本セグメントにおいても横ずれ地形が認められないことなどから,@の断層の近傍に存在する可能性がある。
内木場セグメントでは,@の肥薩火山岩類と四万十層群との境界断層及びBの鉛直変位卓越型の比較的低角度な正断層は一致しており,これらの断層はリニアメントとも対応している。Aの横ずれ卓越型の断層ついては,本セグメントではリニアメントに沿った尾根・水系の右横ずれ地形が比較的明瞭であることから,この断層も@及びBの断層と一致しているものと推定される。平成10年度の調査により内木場第1トレンチ及びその近傍の露頭で確認されている断層は,四万十層群の破砕帯中に認められる高角度断層であり,断層面上に水平方向の卓越した条線が認められることから,Aの横ずれ断層に相当するものと考えられる。この場合,内木場第1トレンチで認められた断層は阿蘇4テフラ起源の火山ガラス・鉱物を含む地層に変位を与えていることから(図 3−4),Aの横ずれ卓越型の断層は,約9万年前〜約7万年前以降まで活動していたことになる。
以上のことから,出水断層帯のほぼ全線にわたり,古いものから,@北西側の肥薩火山岩類と南東側の四万十層群とを境する北西落ちの高角度正断層活動期, A横ずれ変位卓越型の断層活動期, B北西落ちの鉛直変位卓越型の比較的低角度な正断層活動期の3ステージの断層活動が識別され,出水断層帯における最近の活動形態は, 断層面の傾斜が50°程度の比較的低角度な正断層であり, その活動は鉛直方向の変位が卓越しているものと判断できる。