4−2−2 日添地点の断層

本地点では, 北西側から,@北西側の肥薩火山岩類と南東側の四万十層群破砕部とを境する高角度正断層,A四万十層群破砕部内の高角度正断層,B北西側の四万十層群破砕部と南東側の四万十層群健岩との境界付近の比較的低角度な正断層の3断層が確認される(図4−13)。出水断層帯全体としては,@の断層−Bの断層間の約 40mが破砕帯となっている(図4−13図4−15図4−16)。

@の北西側の肥薩火山岩類と南東側の四万十層群破砕部とを境する断層は,Hz−5孔及び Hz−10孔で確認され(図4−13),両孔の北西側には肥薩火山岩類が,南東側には四万十層群破砕部が分布する(図4−15図4−16)。ボーリング・コアで観察される断層面の傾斜角は約70°で,その上盤側に肥薩火山岩類が下盤側に四万十層群破砕部が確認されることから,本断層は北西落ちの正断層である(図4−15図4−16)。コアの観察結果によると,図4−15図4−16に示すように,断層面及びその近傍の破砕部は完全に固結(岩石化)していること,断層の両側でT層基底面の高度に不連続が認められないことから,本断層の中部更新世以降における活動はないものと判断できる。

Aの四万十層群破砕部内の高角度正断層は,ボーリング調査結果により,T層基底面の高度不連続から推定され,鉛直変位量は,北西落ち 11m以上である(図4−15)。この断層は,第2及び第3トレンチで直接確認され,北西側のT層と南西側の四万十層群破砕部とを境する北西落ちの鉛直〜高角度正断層である(図4−13図4−18−1図4−18−2図4−18−3図4−18−4図4−18−5図4−19−1図4−19−2図4−19−3)。この断層の連続と判断される断層が第1トレンチでも認められる(図4−13図4−17−5 )。第2及び第3トレンチでは, 断層面近傍で,T層に顕著な引きずりが認められ(図4−18−4図4−18−5 ),断層面上には水平成分の卓越した条線が明瞭である(図4−18−5図4−19−3)。本断層は,第2トレンチにおいて,U層基底面に変位を与えていないことが確認されることから(図4−18−3図4−18−4 )最近における活動はないものと判断される。

Bの比較的低角度な正断層は, 第1, 第5A, 第5B, 第5C,第5D,第6A及び第6Bトレンチで確認される(図4−13)。この断層は,いずれのトレンチにおいても,北西側の四万十層群破砕部と南東側の四万十層群健岩との境界,あるいはその近傍の破砕部内に認められ,断層面の傾斜角は55°〜40°北西傾斜と比較的低角度であり(図4−17−1図4−17−2図4−17−3図4−17−4図4−17−5図4−22−1図4−22−2図4−22−3図4−23図4−24図4−25図4−28−1図4−28−2図4−28−3図4−29−1図4−29−2図4−29−3),断層面上には傾斜方向が卓越する条線が認められる(図4−17−4図4−22−3図4−29−2 )。

第5A, 第5B及び第5Cトレンチにおいては,U層が第2トレンチに比べて比較的低い位置に分布する(図4−20)。

第5Dトレンチでは,Bの正断層は,北西側のV層と南東側の四万十層群を境し,断層の南東側で四万十層群を覆う礫層は四万十層群起源の礫を多く含むことからT層に対比される(図4−25)。

第5Aトレンチでは,Bの正断層は, 北西側のU層及びV層と南西側の四万十層群とを境しており, 入戸火砕流堆積物(約 2.5万年前)に変位を与えていることが確認される(図4−23)。第5B及び第5Cトレンチにおいても,この断層は, 北西側のV層と南東側の四万十層群とを境するが,断層の上方は変位状況が不明瞭であり,断層とさらに上位の地層との関係を確認することができなかった。

Bの低角度正断層の最新活動時期を限定することを目的に日添地点北東端で第6A及び第6Bトレンチを掘削した(図4−13図4−26図4−27)。両トレンチにおいては,W層をその層相及び構造からWa,Wb,Wc及びWdの4層に細分した。

第6A及び第6Bトレンチにおいて,断層は, 14C年代値が約 11000y.B.P.の腐植質シルト層を挟在するWa層に変位を与えており(図4−28−1図4−28−2図4−28−3図4−29−1図4−29−2図4−29−3)この腐植質シルト層及びその直上のWa層最上部は,断層とほぼ平行に岩脈状に下位層内に落ち込んでいることが確認される。この岩脈状の構造は,Wa層の直上のWb層に覆われている(図4−28−2 )ことから,腐植質シルト層堆積期あるいはその直後の約 11000y.B.P.前後に断層活動があったことはほぼ確実と判断できる。さらに上位のアカホヤ火山灰層(約6300年前)を挟在するWc層は,断層近傍において,ほぼ水平から60°程度北西傾斜に屈曲しており,この構造をWd層が不整合に覆っている(図4−28−3 )。このWc層及びアカホヤ火山灰層の構造は,堆積構造(例えば,マントル構造)としては急であることから,断層運動に伴う変形と判断される。このことから,本地点における断層の最新活動時期は,約6300年前以降,Wd層堆積前となるが,Wd層の年代は特定できていない。

以上のように,日添地点におけるボーリング調査及びトレンチ調査の結果,3断層のうち最も南東側に位置する比較的低角度な正断層が,最も新しい時代まで活動したことが明らかとなり,その最新活動時期は約6300年前以降である可能性が高く,その一回前の活動時期は約 11000y.B.P.前後であると判断された。

また,この断層の形態は, 平成10年度に調査を行った高尾野町内木場東地点, 出水市君名川地点で確認された断層の性状と極めて類似している。