4−1 矢筈峠セグメントに関する調査結果

矢筈峠セグメントでは, 山地西縁の急崖が明瞭であり, 急崖基部に断層が推定される(図4−1図4−2)。本セグメントについて,断層の位置,堆積物の分布状況等を把握することを目的に, 地表踏査を実施した。

空中写真判読によると, 矢筈峠以北の熊本県水俣市招川内付近では,リニアメントは2条に分岐して認められ,これらのリニアメント近傍には,概ね5段の土石流堆積面が分布している(図4−1)。

上記の2条のリニアメントのうち, 北西側のリニアメントを横断する低位の土石流堆積面には変位地形を示唆する地形は認められない(図4−1)。

南東側のリニアメントについては, 矢筈峠の北東において, リニアメントを横断する低位の土石流堆積面(低位T面)上に不明瞭な傾斜変換部が空中写真により判読されることから, この傾斜変換部をLD リニアメントとして認定した(図4−1)。この地点付近について現地調査を行った結果,この低位の扇状地面はさらに5段に細分され,空中写真判読によりリニアメントと認められた土石流堆積面上の傾斜変換部は,新旧の土石流堆積面,d面とe面とを境する段丘崖に対応するものと考えられる(図4−3図4−4)。

地表踏査結果によると, 上記2条のリニアメントのうち, 南東側のリニアメントについては,これを挟んで両側に分布している肥薩火山岩類の岩相は互いに酷似しており,同層準の分布標高は,南東側の方が南西側よりも約60m 高い。これを基準にすると,北西側低下の断層が推定される(図4−5)。

また,北西側のリニアメントの延長部においても, 肥薩火山岩類中に断層が確認された(図4−6)が,この断層の上方に分布する中位の土石流堆積面には,変位を示唆する地形は認められない(図4−7)。

以上のように,矢筈峠以北の熊本県側では,リニアメントの位置に対応して肥薩火山岩類中に,断層が確認あるいは推定されるものの,断層を横断するより低位の土石流堆積面に明らかな変位地形を確認することはできず,断層の新しい時代における活動の有無は不明である。また,当該地区に分布するいずれの土石流堆積面についても,その年代に関するデータも得られていない。

矢筈峠セグメントでは, 全線を通じて,地形的な北西落ちの鉛直変位が明瞭であり,水系・尾根の横ずれは不明瞭である。空中写真判読によると, 出水市芭蕉北方において, 不明瞭ながら尾根の右屈曲が認められる(図4−1)。同地点において, 現地で地形測量を行った結果, 尾根の高度不連続は明瞭であるが, 尾根・水系の系統的な屈曲は認められなかった(図4−8図4−9)。

また,出水市芭蕉においては, リニアメントの南方延長部にL2 面及びL3 面が分布しているものの, 空中写真判読及び現地調査によっても,これらの面が変位しているか否かを判断することができなかった(図4−10図4−11)。