4−7 出水市宇都野々地点の調査結果

本地点は, 宇都野々セグメントの中央部に位置し,出水断層帯のうち地形的に最もリニアメントが明瞭な地点の一つである(図4−2)。本地点では, 南東側の山地北縁の急崖と北西側の入戸火砕流堆積面とが接しており,その地形境界付近にLB リニアメントが判読される(図4−26)。

本地点のルート・マップを図4−27に,地形断面図を図4−28に示す。

本地点北側の谷においては, 南東側に四万十層群が, 北西側には礫層及び入戸火砕流堆積物が分布する(図4−27)。四万十層群と入戸火砕流堆積物との関係は確認できなかったが, Loc.u111地点において, 北西側の入戸火砕流堆積物と南東側の古期崖錐性堆積物とを境する正断層が認められた(図4−29)。この断層は, 断層面の傾斜角が60°以下と緩いことから, 地すべりである可能性もあるが, その位置がリニアメントの延長上であること, 断層面の走向が尾根と直交し, リニアメントの方向と一致すること, 断層面の傾斜は下方に向かって急になり,その形態が内木場東トレンチで確認された断層と類似していることから, 出水断層帯の入戸火砕流噴出以降における活動を示すものであると考えられれる。

以上のように, 本地点では,出水断層帯と入戸火砕流堆積物との関係を確認できる可能性があることから, 断層の位置, 入戸火砕流堆積物の変位の有無, トレンチ調査により得られる成果の内容について検討を行うことを目的に, リニアメントとして判読される急崖の基部を挟んで図4−27に示す位置で, 計10孔のボーリングを実施した。ボーリング調査結果を図4−30に示す。

本地点では基盤の四万十層群を覆って下位より, 黄橙色シルト質砂層・礫層, 入戸火砕流堆積物, 黄褐色角礫層及びローム層・表土が分布する。入戸火砕流堆積物より下位の堆積物から採取した試料の14C年代は約 37000年前及び約 47000年前の値を示し, 入戸火砕流堆積物より上位の堆積物を覆うローム層最下部から, アカホヤ火山灰層(約6300年前)起源のガラス・斜方輝石が多量に検出される(図4−31)。

Ut−8孔及び Ut−10孔において, 基盤は四万十層群の断層破砕粘土であることが確認され, その北側では, 基盤上面及び入戸火砕流堆積物の下面・上面いずれも, 地表面と同様にほぼ水平である。

Ut−8孔及び Ut−10孔の南側では, 基盤上面及び入戸火砕流堆積物下面はいずれも,かなりの急勾配で山地の西方に向かってその高度が高くなるのに対して,入戸火砕流堆積物上面は地形面とほぼ平行に連続している。すなわち,入戸火砕流堆積物及びその下位の堆積物は,西方に向かって尖滅し,基盤の急斜面にアバットする形態を示しており,基盤上面及び入戸火砕流堆積物の下面・上面いずれにも,顕著な不連続は認められない。これらのことから,本地点では,断層は少なくとも入戸火砕流堆積物には変位を与えていない可能性も考えられる。

しかし, ボーリング調査により明らかとなった基盤における断層の位置,並びに基盤上面及び入戸火砕流堆積物下面の傾斜変換点は,出水断層帯の地形的な推定位置と一致していること, Ut−10孔では入戸火砕流堆積物の下位の堆積物と断層粘土とが比較的高角度の面で接していること(図4−30), Ut−7孔では入戸火砕流堆積物内に高角度の赤褐色粘土質細粒物質からなる面構造(この面構造は,その性状からは断裂すなわち破壊によって生じた不連続面であるか否か不明であることから,以下,その成因を明確にしない意味で「スジ状断裂」と呼ぶ。)が数条認められること(図4−30)など, 本地点において, 入戸火砕流堆積物に断層変位が及んでいる可能性も残る。

いずれにしても,本地点で実施した今回のボーリング調査の精度では,入戸火砕流堆積物における断層変位の有無を確かめることはできなかった。このため,トレンチ調査により,基盤中の断層と入戸火砕流堆積物との関係を直接確認することが必要となったが,本地点では,入戸火砕流堆積物上面は深度約7mに,基盤上面は深度 22m付近にあり,ここでのトレンチ調査は困難と判断した。