本地点及びその周辺のルート・マップを図4−15に示す。本地点において,リニアメント北側に分布する平坦面の年代は不明であるものの,同平坦面は断層推定位置の近傍まで分布し,周囲の露頭の状況から基盤の四万十層群上面深度は比較的浅いと推定されることから,基盤中の断層と平坦面を構成する堆積物との関係を直接確認することが可能と考えられた。
このため,図4−15に示す位置で,断層推定位置付近で計5孔のボーリングを実施した。ボーリング調査結果を図4−16に示す。
Uk−5孔及びその北側のUk−1孔,Uk−2孔,Uk−3孔では,基盤はいずれも,その岩相から新第三系と推定される貫入岩であり,この基盤を覆って約4m〜約5mの堆積物が分布する。これら4孔間では,堆積物基底面は北に10°程度のやや急な傾斜を示すものの,堆積物の基底面高度に不連続は認められない。
一方,Uk−5孔の南側約5mの位置で実施したUk−4孔では,基盤は四万十層群及びその粘土破砕部からなり,堆積物基底面の高度はUk−5孔に比べて約1.5m高いことが確認された。
このことから,Uk−5孔とUk−4孔との間に,堆積物基底面に北落ちの変位を与える断層が存在する可能性が高いと判断され,基盤中の断層と堆積物との関係を直接確認することを目的に,図4−17に示す位置でトレンチを掘削した。トレンチの展開図を図4−18に,各法面のスケッチ・写真を図4−19−1,図4−19−2,図4−19−3,図4−20−1,図4−20−2,図4−20−3,図4−21−1,図4−21−2に示す。
トレンチ内には,基盤及びそれを覆う堆積物が分布する。基盤は,四万十層群と風化の進んだ貫入岩及び火山礫凝灰岩とからなり,貫入岩及び火山礫凝灰岩はその岩相・岩質等から新第三系と推定される。堆積物は,その層相に基づき,下位からT層〜W層に4区分した。T層は,基盤を直接覆い,シルト質角礫層から,U層は下位の角礫層及び上位の赤色シルト質角礫層から,V層は砂質角礫層から,また,W層は下位より褐色ローム質細礫層,褐色ローム質砂層及び表土からなる。
トレンチから採取した連続試料の火山灰分析結果によると,W層下部にはアカホヤ火山灰層(約6300年前)起源のガラス及び斜方輝石が比較的多く検出される(図4−22)。その下位にも,同火山灰層起源のガラス及び斜方輝石が散点的に認められるものの,その量は極めて少ないことから,これらは生物擾乱等によるものと考えられ,アカホヤ火山灰層の降下層準はW層下部と判断される。また,V層とU層との境界付近を境に,その上位には姶良Tn火山灰層(約 25000年前)起源のガラス及び斜方輝石が検出され,その下位には検出されないことから,同火山灰層の降下層準はV層とU層との境界付近にある(図4−22)。
トレンチの東西両法面において,基盤内に北側の貫入岩及び火山礫凝灰岩と南側の四万十層群とを境する断層が確認された(図4−18,図4−19−1,図4−19−2,図4−19−3,図4−20−1,図4−20−2,図4−20−3)。断層面は,トレンチ下部の基盤内では鉛直〜高角度北傾斜を,上方では40°〜50°北傾斜を示し,断層面の傾斜角は上方に向かって緩くなっている。基盤上面の高度は,断層を挟み,北側が約 3m低く,V層以下の堆積物は基盤上面の低下側のみに分布している(図4−19−1,図4−19−2,図4−19−3,図4−20−1,図4−20−2,図4−20−3)。V層以下の堆積物と基盤とは平滑な面で境され,この面に沿って軟質な粘土がみられ,粘土及び面は基盤中の断層に連続していることから,V層以下の堆積物は断層変位を受けているものと判断される。
断層は,V層以下の堆積物に北落ちの変位を与える正断層であり,W層に覆われている(図4−18)。この断層が出水断層帯の最近における活動を示すものとすると,V層堆積以降,W層堆積以前における断層活動があり,この活動が本地点での最新活動となる。上記の火山灰分析結果によると,V層とU層との境界付近に姶良Tn火山灰層降下層準が,W層下部にアカホヤ火山灰層降下層準があるから,最新活動時期は,約 25000年前以降,約6300年前以前となる。
また,東側法面では,U層と断層粘土との境界はV層に覆われ,T層と断層粘土との境界面もU層に覆われている(図4−19−1,図4−19−2,図4−19−3)。これらのことから,約 25000年前以前においても,U層堆積以降,V層堆積以前及びT層堆積以降,U層堆積以前に断層活動があったことが推定されるが,年代試料が乏しく,これらの活動時期の特定はできていない。
以上のことから,本地点では,出水断層帯の最新活動時期は約 25000年前以降,約6300年前以前であること,また,それ以前にも複数回の断層活動があったことが推定された。
ただし,本トレンチにおける断層の形態は,日本でこれまでにトレンチ等により明らかにされた活断層の形態とはかなり異なったものであり,本断層が低角度の正断層であることから,地すべり等の可能性も残る。