本地点のルート・マップを図4−6, 地形断面図を図4−7に示す。
Loc.Y28 地点(図4−6)では, リニアメントは南側の山地と北側の段丘面(L2 面)との境界に位置し, 本地点では断層推定位置の近傍まで段丘礫層が分布している(図4−6, 図4−7)。
一方, Loc.Y28地点の西方約 40mの Loc.Y15地点(図4−6)においては, 四万十層群中に,幅が約2m以上の断層破砕部が認められる(図4−8−1,図4−8−2)。破砕部は礫を含む軟質な粘土からなり, 破砕部内には, 連続が良く, 極めて平面的なほぼ鉛直の断層面が認められる。断層面の走向・傾斜は N86°E,76°N を示し,断層面上には水平成分の卓越した東落としの条線が明瞭である(図4−8−2)。この条線の方向は, 地形的に認められる鉛直が北落ち, 右横ずれの出水断層帯の運動センスと調和的である。
断層の変位は地表面近くまで達しているが, それを覆う堆積物及び土壌には変位は認められない(図4−8−2)。この堆積物及び土壌の火山灰分析結果によると, 堆積物の基底付近から上位において, アカホヤ火山灰起源のガラス・斜方輝石が検出されることから(図4−9), 堆積物の年代は約6300年前以降である。
Loc.Y15で確認された断層は出水断層帯の最近における活動を示すものである可能性が高いと考えられることから, 本地点における断層の活動時期を明らかにすることを目的に, Loc.Y15の西側に分布する谷底面上で第1, 第2及び第3のトレンチを掘削した(図4−9,図4−10)。トレンチの形状を図4−10に, スケッチ・写真を図4−11−1,図4−11−2,図4−11−3,図4−11−4,図4−12,図4−13−1,図4−13−2,図4−14−1,図4−14−2に示す。
いずれのトレンチにおいても, 四万十層群の幅の広い粘土破砕部が分布し, 破砕部内には安山岩質貫入岩及び礫岩のブロックを含む。
トレンチ内の四万十層群粘土破砕部は, いずれもより新しい堆積物に覆われているため, 大部分で変位は認められないものの, 第1トレンチの東側法面では堆積物に断層変位が確認された(図4−11−1,図4−11−2,図4−11−3,図4−11−4)。
第1トレンチの東側法面では, 断層は,北側の礫岩と東側の四万十層群粘土破砕部とを境している(図4−11−1,図4−11−2,図4−11−3,図4−11−4)。北側の礫岩は,基質が良く固結していることなどから新第三系と推定される。断層は,面の走向・傾斜が N54°〜52°E,73°〜78°N を示す北落ちの正断層であり,面沿いには,幅10cm程度の軟質な粘土がみられる。
基盤を覆う堆積物のうち, 赤褐色シルト層以下の地層には明らかに断層変位が認められ, 鉛直変位は赤褐色シルト層の基底で約40cmである。赤褐色シルト層を覆う角礫層及びそれより上位の地層には変位は認められず, 角礫層下部から採取した試料の14C年代は約2600年前の値を示す(図4−11−2)。また, 火山灰分析結果によると, 断層変位を受けている赤褐色シルト層の最下部から阿蘇4テフラ起源のガラス・鉱物が, また,変位を受けていない角礫層からはアカホヤ火山灰起源のガラス・鉱物が検出される(図4−12)。このことから, 赤褐色シルト層の堆積年代は約9万年前〜約7万年前以降であり, 角礫層の堆積年代は約6300年前以降である。
以上のことから, 本地点においては, 約9万年前〜約7万年前以降に, 出水断層帯の活動があったものと判断される。