これらのコアに認められたテフラ層の同定・対比を行うに当たって,南九州に分布する中期更新世の火砕流堆積物については,その層序及び記載岩石学的特徴が余り明確ではないことから,まず,鹿児島市周辺に分布するもの及び鹿児島市に到達した可能性のあるものについて,図3−21−1,図3−21−2に示すように,それぞれの模式地あるいはそれに相当する地点において試料を採取して,各火砕流堆積物の記載岩石学的特徴を明らかにした(図3−22)。
本ボーリング・コアにおける火山灰試料の採取位置及びその分析結果を図3−23に示す。コアにおけるテフラ層の同定・対比の結果を以下に述べる。
コアの深度0m〜70.40mにおいて,砂層中に含まれる軽石のほとんどは,ガラス・鉱物の組成及び屈折率から,入戸火砕流堆積物の再堆積である。
深度54.49m〜59.28mに挟在する軽石層は,ガラス・鉱物組成及びガラス・斜方輝石の屈折率から桜島薩摩テフラ(Sz−S,1.05万年前;町田・新井,1992)に対比される。この対比は,14C年代測定結果により,同軽石層の上位で 10480±80年前,下位で 12070±130 年前の値が得られていることからも支持される。
本コアの深度70.40m以深には,概ね5層の火砕流堆積物が挟在している。
そのうち,最上位の深度73.63m〜88.40mに認められる火砕流堆積物は,バブル・ウォール型のガラスに富み,重鉱物は斜方輝石を主とすること,ガラスは淡い褐色を帯びているものが多く,ガラスの屈折率は 1.500〜1.501 に集中すること,斜方輝石の屈折率は,1.721〜1.727 に明瞭なモードが,1.705〜1.713 にも不明瞭ながらモードがみられ,Bi−mordal 状を示すことなどから,加久藤火砕流堆積物(Kkt,30万年前;町田・新井,1992)に対比される。
深度 185.12m〜193.66m に認められる火砕流堆積物は,ガラスはバブル・ウォール型を主とし,重鉱物組成は黒雲母>緑色普通角閃石であり,ガラスの屈折率は 1.505程度であることなどから,小林火砕流堆積物(Kb−Ks,40万年前〜50万年;町田・新井,1992)に対比される。
深度 201.30m〜265.52m に認められる火砕流堆積物は,ガラスはバブル・ウォール型を主とし,重鉱物組成は緑色普通角閃石≫斜方輝石で,単斜輝石はほとんど含まず,石英を含み,高温型石英を少量含む。ガラスの屈折率は 1.497〜1.499 程度でバラツキが少なく,普通角閃石の屈折率は 1.667〜1.674 に,斜方輝石の屈折率は 1.708〜1.711 にそれぞれ集中する。これらのガラス・鉱物の組成及び屈折率から,本火砕流堆積物は樋脇(下門)火砕流堆積物(Hwk,50万年前〜60万年前;町田・新井,1992)に対比される。
深度 107.48m〜116.98m 及び深度 135.27m〜183.14m に認められた火砕流堆積物については,現在のところ,これまでに記載された火砕流堆積物との対比はできていない。